お役に立ちたい一心で。
「先日先生に指摘されたのですが、今回のチャリティバザーに何か目玉となるような催しがない、と」
場をとりなすように、先ほどの眼鏡の先輩が口を開く。おそらくは、彼が生徒会長なのだろう。
「そのようなものが必要でしょうか。そもそもこのバザーの収益は、全て孤児院や修道院、その他国営の治療院などへ寄付され、万が一出展物が余ってもそちらも同様に寄付という形を取る算段です。あえて客寄せのような催しをせずとも、バザーの有益性は充分に証明されています」
アンドリッサが、淡々とした口調で至極最もな意見を述べる。全く空気を読まないところも、私は可愛らしくて大好きだ。
「今年は、少々事情がありまして……。なんでも、隣国の第四皇子がお忍びでやって来るとか来ないとか」
「隣国の第四皇子?それってまさか」
「レグルス=オルグ・ランキューズ皇子殿下です」
生徒会長がその名を紡いだ瞬間、元々騒がしかった室内がさらなる喧騒に包まれる。呆けているのはどうやら私だけのようで、ロイスでさえ微かに息を呑んでいるのが、頭上から伝わってきた。
この国以外の情報が、ゲーム内で出てきたことなどほとんどなかった。そういえば、アンドリッサ編の時に「隣国の皇子に見初められた」とかいう話があったような。ロイス攻略のストーリーで、それに嫉妬した彼が想いを打ち明けるベタな展開。それにより、2人の仲は一層深まるという素敵なイベント。
けれど、名前や詳しい人物像までは出てこなかったはず。やはり、シナリオ通りにはいかないらしい。
「レグルス皇子といえば、めちゃくちゃ遊び人で有名ですよね」
「婚約者もころころ変わり、もはや自国ではまともなご令嬢からは相手にされないとか」
「なんせ見た目がいいから、遊び相手としてはうってつけみたいですけど」
皆口々に「レグルスはとんでもないタラシ」だというエピソードを語っている。帝国の第四皇子がこの言われよう、よほどの色魔に違いない。
「噂では、この国に婚約者探しに来るとか来ないとか」
先ほどから不確定な情報が多い気がするけれど、あくまで内密ということになっているようなので、仕方ないのかもしれない。
「いや、じゃあこの場で言っちゃダメでしょう」
などと、思わず突っ込まずにはいられなかった。
「まぁ。どれだけ悪評高い方でも、相手は皇子だから。楽しませろと言われたら、それに答えるしかないんだ」
生徒会長が、ふにゃりと眉を下げる。
「では、女生徒に派手な衣装で踊ってもらうとかは、どうでしょう」
その提案をした一人の男子生徒は、あっという間に針の筵となった。当たり前だ、そんなおじさんの接待みたいなこと私だって絶対に嫌だ。
「もしも皇子のお気に召さなければ、エドガー殿下の評価が下がってしまうのでは……、と」
「ああ、僕を気にしてくれたんですね。それは、ありがたい」
当の本人は、さして焦っている様子もない。
「なんせ急に言われたことですし、もうあまり時間がありません。一体どうすれば……」
「は、はい、はい、はい!ぜひ、私に提案をさせていただけないでしょうか!」
気付けば私は、あたまで考えるよりも先に勢いよくドアを開いていた。そのせいでロイスは思いきりバランスを崩していたけれど、今は気にしていられない。
「あ、貴女は……、一体どなたでしょう?」
生徒会長が、眼鏡の奥の瞳を見開いている。その他のメンバーも、突然の来訪者に驚き皆固まっていた。あのアンドリッサさえも。
「わ、私はマーガレット・フォーサスと申します。あ、あの、急に割り入ってしまって本当に申し訳……」
「やあ、マーガレット。遅かったね、待ってたよ」
勇んで飛び出したくせに、注目を浴びると途端に足がすくむ。そんな私に手を差し伸べてくれたのは、エドガーだった。




