いざ、二人で覗き見へ。
「私、ちょっと様子を覗いてみようかしら」
「邪魔になるだけじゃない?」
「分かっているけれど、何か役に立ちたいんです」
魔法も使えるし、魔石だって父に頼めばなんとかなる。チャリティバザーの運営メンバーではなくとも、力になれることがあるかもしれない。あわよくば、エドガーと話がしたい。いや、この邪な気持ちは封印しなければ。
「ベスターさんも一緒に行きますか?」
「……」
「ロイスも、良かったら」
「行く」
こんなに面倒な性格だっただろうかと考えつつ、可愛いので結局なんでも許せてしまう。
思い立ったがなんとやらで、私達は早速運営メンバーが使用している教室へと向かったのだった。
「あれ?昨日纏めた資料は……」
「こちらに」
「誰か、護衛の配置図知らない?」
「こちらに」
「どうしよう、今日までに予算表を纏めないと」
「こちらに」
偶然空いていたドアの隙間から、私はちらりと顔を覗かせる。まるで積み上げられた雪だまのように、ロイスは私の頭に顎を乗せた。
さすがは我らがアンドリッサ。二年生だというのに、中心となっててきぱきと働いている。相変わらず愛想はなく、言い方もキツい。リリアンナが根も葉もない噂を流しているせいもあって、彼女は明らかに周囲から敬遠されていた。
「誰よりも優秀なのに、なんて不当な扱いなの!」
「到底許せないね。僕達が叱りに行こう」
飛び出そうとするシャルロを止める為、下からがつん!と頭突きをかます。
「い、痛い!」
「しいーっ!静かに」
私もそうしたいのは山々だけれど、それがプラスとならないことは分かっている。
「何であの子が仕切ってるの?生徒会でもないのに」
「エドガー殿下に認められたくて、張り切ってるんじゃない?」
「ノチェス嬢に取られそうだから、躍起になっているのね」
ドアの辺りにぼうっと突っ立ったまま、毛ほどの役にも立たない女生徒達が小声でアンドリッサの悪口を囁き合っている。
「……前言撤回。殴り込みましょう」
さすがに我慢が効かなくなり、カチコミをかけようとドアに手をかけた瞬間。正に王子と言わんばかりの凛とした声が響き渡る。決して声量があるわけではないのに、誰もが耳を傾けずにはいられない。
「僕の婚約者アンドリッサは、とても誤解されやすいんです。本当は皆さんのお役に立てて嬉しいと、毎日そう口にしています」
「そ、そうなのですか?」
アンドリッサは無表情を貫いているけれど、付き合いの長い私には彼女の胸の内が手に取るように分かる。
――そんなこと言っていないし、微塵も思っていない。
と。
「エドガー殿下がそうおっしゃるのなら……」
ひょろりとした真面目そうな風貌の男子生徒が、恭しく頭を下げている。
「僕達は勝手を知りませんので、ぜひご教授いただきたい。ねぇ、アンドリッサ」
「ええ。本当に」
軽やかに彼女の肩を抱くエドガーと、微動だにしないアンドリッサ。先ほどまで陰口を叩いていた女生徒達は、バツが悪そうに口を噤んだ。
「良かった。とりあえず場は治ったみたいだね」
「……そうね、さすがは殿下だわ」
大好きな友人がピンチを乗り越えたというのに、二人の触れた箇所から目が離せない私は、なんて狭量なのだろう。婚約者同士なのだから、当たり前のことなのに。
「……痛い」
「あ、ごめん。顎が刺さってる?」
胸を押さえて呟く私に、ロイスが見当違いの謝罪をする。あえて否定しなかったのに彼は退こうとしない。
「我慢してね」
「……まったく、もう」
乙女の頭を土台代わりに使うロイスに向かって、内心べーっと舌を突き出した。




