なかなか上手くいかない。
うだるような暑さも、過ぎてしまえばどうということはない。もうすぐ開催されるチャリティバザーに向けて、校内は何かとバタついていた。適当なベンチに座り、私はそれをただぼうっと眺めているだけ。
「はぁ……。それどころじゃないのよね」
バザーの主体は四、五年生。許可さえ取れば出店は何年生でも自由に出来るけれど、そんな気概は私にはない。
それに、エドガーに逃げられてばかりで日に日にやつれていく。シャルロからは「太ったか?」と言われたから、無言で頬をつねってやったけれど。
だって、仕方のないことなのだ。ストレス解消には、甘い物つまりチョコレートが一番。今年からライオネルも学園に入学し、こっそり送ってもらえる相手がいなくなったと絶望していたけれど、私の侍女メリルが代わりを務めてくれた。それはもう、嬉しくて。母に見つかることだけは避けなければ、どんなお小言が待っているやら。
「いよいよ、本格的に嫌われたのかも……」
想いを伝えることすら出来ないまま、彼はアンドリッサと結婚してしまうのだろうか。彼女でなくとも、他の誰かと。いや、それはダメだ。マーガレットという存在がこのゲーム世界のバグだとするなら、最後までその役割を果たさなければ。
エドガーが愛する誰かと死ぬ結末を選ぶことを、私が阻止する。それより他に、大切なものはない。
「そうよマーガレット!弱気になっちゃダメ!私なら絶対!やり遂げられるわ!」
「何を?」
「ええ、それはね……、って、わあぁ!」
あまりにもナチュラルに聞き返されたから、思わず答えてしまいそうになった。
「大きい声出さないで、驚くから」
「ごめんなさい」
「気を付けてよね」
いつの間にか私の隣に腰掛けていたロイスが、嫌そうに顔を顰めている。
「いやいや、元はと言えばベスターさんが急に声を掛けるからで……」
「ロイスでいいよ」
「ああ、はい」
相変わらず、マイペースで掴みどころがない。ミステリアスなオッドアイと白髪は大変魅力的で、顔に似合わず低めの掠れた声も、公爵令息らしからぬ口調も、私は彼の魅力の一つだと思っている。ゲーム内でもそうだったように、ロイスには友人が一人もいない。孤独が趣味のような顔をして、実は寂しがり。
当時はそんな設定も萌えに萌えたなと、妙に懐かしく感じてしまった。
「こんなところで何してるの?」
「別に何も」
「暇なんだね」
悪いか、と言いかけた口元を、掌で押さえた。
「ノチェスさんを見張ってなくていいんですか?」
ロイスは、アンドリッサ様のことが好き。リリアンナの魔の手から彼女を守る為、私達は同盟を結んだのだ。
「ああ、うん。今エドガー殿下もアンドリッサ様もお忙しくて、リリアンナ・ノチェスに構っていられないみたい。常に誰かが傍にいるから、さすがに何も出来ないと思う」
ロイスの言葉に、私はこくりと頷く。確かにアンドリッサは、チャリティバザーのことで忙しなく働いている。二年生とはいえ、エドガーは我が国の第一王子。参加しないわけにはいかず、婚約者であるアンドリッサも補佐的役割を担っている。
「いいなぁ、ずっと一緒にいられて」
「だよね。僕もそう思う」
ロイスは私の台詞を勘違いしたまま、同意の溜息を吐いた。




