表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/88

掌に、こっそりひと粒。

「フォーサスさんって、人のものを奪うのが趣味なの?」

「わ、私はそんな……っ」

「どうせロイスにも、私の悪口を吹き込んだんでしょう?最近冷たくなったと感じていたけれど、貴女のせいだったのね」

 酷い、酷いと哀しげに連呼するリリアンナは、完全に悲劇のヒロイン。私は悪役令嬢の取り巻きAとして、本来なら名前すらもらえない端役に過ぎない。

「エドガー様は、どうか騙されないでください。フォーサスさんの言うことは、全てデタラメなのですから」

「私は、ノチェスさんの悪口を吹聴したことなんてない!」

「ほら、早速嘘を吐く。そうやって男性の気を引こうとして、浅ましいったら」

 ああ、面倒だ。こんな風に自分を悪く言われることには慣れっ子なので、反論しようとも思わない。

「仲睦まじいのは結構だけれど、ロイスと貴女は釣り合わないわ」

「良い加減にしてください。これ以上は聞くに耐えません」

 綺麗なオッドアイが、嫌悪に歪んでいる。ロイスは私を庇うように前に立ち、リリアンナを睨めつけていた。

「人を貶める発言ばかり、恥ずかしいと思わないんですか?」

「な……っ、わ、私は被害者なのよ!?」

「だったら、証拠を揃えて然るべき機関へ提出したらいい」

 まさか、庇ってくれるとは思わなかった。アンドリッサ大好き同盟の絆は、どうやらロイスにとって大切なものらしい。私がというより、彼女の友人を悪く言われる、という構図が許せないのだろう。


「もう良いでしょう。貴女がなぜこの場所へ僕を連れて来たかったのか、大体分かった」

 リリアンナは形の良い眉を吊り上げ、さらに反論しようと口を開いた瞬間、これまで静観していたエドガーが割って入る。あくまで中立の立場を崩さない彼は、こちらをちらと一瞥しただけ。

「友人同士の握手に目くじらを立てることもないよ」

「で、ですが……っ」

「もう夕食の時間になるし、早く戻ろう」

 懐から懐中時計を取り出し、かちゃりと蓋を開く。たったそれだけの動作が、まるで観劇のワンシーンのように美しく見えた。

「じゃあ、またね」

 私は碌な挨拶も出来ないまま、エドガーは横をすり抜けていく。その傍を歩く不貞腐れたリリアンナに気付かれないよう、彼の綺麗な指が私に触れた。

「転ばないよう、気を付けて」

「……はい、殿下」

 私の掌には、チョコレートの包み紙。昔から、いつも取り寄せてはプレゼントしてくれた、シンプルなそれ。溶けてしまうと分かっていても、ぎゅうっと抱き締めずにはいられなかった。


「僕達のこと、誰かに尾けさせてたんだ。でなきゃ、こんなにタイミングよく現れない」

「ええ、確かに。ノチェスさんならやりかねません」

 卑怯な彼女は、何としてでも私を排除したいらしい。

「エドガー殿下はアンドリッサ様の婚約者なのに、よくあんな風に出来るよね」

 背中を見送るロイスが、ぽつりと漏らす。先ほどまでの伸びた背筋はどこへやら、神秘的なオッドアイは穏やかな輝きを放っている。

「……そうね。ベスターさんの言う通りですわ」

 以前偶然居合わせた時、二人の婚約話はつつがなく進んでいる様子だった。私のこの想いも、リリアンナのしている行動と何ら変わりはない。

「僕なら、好きな人を困らせたりしない」

「私は……、自信がありません」

「マーガレットにも、好きな人がいるの?」

 いつの間にやら、彼は私を名前で呼ぶことにしたらしい。ことりと首を傾げるロイスに、私は静かに頷いた。

「たとえ叶わなくても、構いません。だけどこの気持ちを、殺したくないと思ってしまう。自分勝手だと分かっているけれど、ちゃんと伝えたいんです」

「凄いよ、君は。勇気のある人だ」

 彼の表情は、どこか憂いを帯びている。叶わない恋に身を焦がす私を、自身と重ねたのだろうか。

「私はずっと、間違えてばかりだから」

「そんなの当たり前だよ。物語のように、シナリオがあるわけじゃないんだから」

 夕暮れの匂いと共に、一陣の風が吹き抜ける。ロイスのその言葉を聞いて、私は噛み締めるように「そうですね」と呟いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ