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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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まさかの天然キャラ。

「誰にも内緒ね」

「も、もちろん」

 わざわざ人気のない場所を選んだにも関わらず、ロイスは更に身を屈めて、私の耳元に手を添える。ひそひそと小声で打ち明けるものだから、聞き返してしまいそうになった。

「ちゃんと聞いてる?」

「き、聞いてま……いたい!!」

 ごつんと嫌な音がして、私は悲鳴を上げる。なぜか彼は私の額に、思いきり頭突きをおみまいしてきた。

「ごめん、滑った」

「は、はい……!?」

 まったく意味が分からない。ゲーム内でもミステリアスで表情の読み取りにくいキャラクターだったけれど、眼前の彼を一言で表すならば、正に『天然』に尽きる。

「とりあえず、座りましょう」

「うん」

 ひりひりと痛む額を押さえながら、何とかそれだけを絞り出した。


「それで、先程の件ですけれど……」

「ああ、うん」

「なぜ、私に?」

「仲良しかなって」

 きょとんとした顔をされても、それはこちらの方だと言いたい。

「ベスターさんは、リリアンナ・ノチェスさんを好きなのでは?」

「違う」

 彼がふるふると首を振ると、シルバーの髪がさらさらと揺れる。あまりに止まらないものだから、つい手で押さえてしまった。

「首が取れてしまいますよ!」

「取れないよ。変なの」

 それは貴方ですと言いたい衝動を、ぐぐっと堪える。全てを拾って突っ込みを入れていると、時間がいくらあっても足りない。

「では、なぜ行動を共に?」

「アンドリッサ様に危害を加えないように」

「見張っていらっしゃったと?」

 こくりと頷くその姿は、まるで無条件に親鳥を慕う雛のように見えた。

「この間は、ありがとう」

「え……っ?」

「あのまま放っておいたら大事だったって、常駐医に言われた」

 ああ、噛まれた怪我のこと。

「って、今このタイミングで!?」

 もう天然というレベルを超えているのではと、頭を抱えたくなる。私の知るロイスは、こんな性格ではなかったはずだ。

「ま、まぁ。それは良かったです」

「あの犬を、アンドリッサ様にけしかけようとしてた」

「まさか……、リリアンナが?」

 あんな場所でイベントが発生するなんて、おかしいと思っていた。リリアンナ自らが用意して、恐ろしい計画を立てていたなんて。


「許せない、あの女。私の大切なアン様に手を出そうだなんて、今すぐに胸ぐらを掴んで頬が真っ赤に腫れ上がるまで叩きのめしてやりたいわ。いえ、それだけではまだ生温い。簀巻きにして海に放り込んで」

「早口で聞き取れない」

「あ、あら。失礼いたしました。つい頭に血が上ってしまって。あの方のことになると、自分を抑えられないのです」

 気恥ずかしくなって頬に手をやると、ロイスの瞳が嬉しそうに輝く。

「僕も、そう。昔アンドリッサ様に助けられてからずっと、あの方だけを思ってきた」

「そうなんですか?気が付きませんでした」

「迷惑だろうと思って」

 犬の耳が、ぺたりと垂れ下がる幻覚が見えた。

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