神秘的なオッドアイ。
「誰だっけ」
「同じクラスの、マーガレット・フォーサスです」
「知らない」
独特の空気感を醸し出しているロイスは、儚げな外見に似つかない低音で呟く。そのギャップが、また堪らない。
「もしかして、怪我をされているのでは?」
「いいから、向こうへ行って」
「それは出来ません」
顔色が悪く、脂汗も滲んでいる。ちらりと手に視線をやれば、動物に牙を突き立てられた跡がはっきりと見てとれた。これは、シナリオにあった。彼は獰猛な犬に噛まれて、それをヒロインが手当する。つまり、序盤の出会いイベントというわけだ。
なぜこのタイミングでそれが起こっているのか分からないけれど、今優先すべきは怪我の治療。私はポケットから魔石を取り出すと、そこに魔力を込めた。
「ちょっと、何して」
「いいから、じっとしてください」
治療という選択肢を選ばなかった場合、傷が化膿してロイスは感染症に罹る。高熱で数日間苦しむことになるなんて、さすがに見逃すことは出来ない。
彼の手首を強く掴み、止血の意を込める。制服が濡れないよう注意を払いながら、水魔法で傷口を洗い流した。今の私は、治療具を持ち合わせていない。
顔を歪めるロイスを見て、謝罪を口にしながらも手を止めることはしない。ある程度洗い流したところで、取り出したハンカチで患部をキツく縛った。
「乱暴にしてすみません。こうした方が、他に広がらないと思ったのです」
「余計なことを」
「すぐに医務室へ。お一人で行けないというのなら、ぜひ付き添わせていただきますが」
こう言えば、彼は拒否すると分かっていた。以前から、シャルロと共にリリアンナの傍にいる姿を見ていたから。きっと、私のことが嫌いなのだ。それなのに名前を覚えていないというのが、少し不思議だけれど。
「必ず、今すぐ、ここから一直線に、向かってくださいね。でないと、心配で明日から付き纏ってしまうかも」
「……必要ない」
「ですね。失礼いたします」
恭しく膝を降り、私はその場を後にする。エドガーにも、こんな風に接することが出来たらいいのにと思いながら、妙に清々しい気持ちで空を仰いだ。
そして、後日。再び勇んであの方に会いに行こうとしたところで、無機質な低い声に呼び止められる。確認するまでもなく主を理解していたけれど、わざと驚いた表情を作ってみせた。
「ベスター様。怪我の具合はいかがですか?」
「平気」
「それは良かった」
にこりと笑みを浮かべる私を、神秘的なオッドアイがじいっと見つめる。これは恋心とは全くの別物で、見目麗しい美男子に熱い視線を注がれたなら、ときめかなければ失礼に当たるというものだ。
内心どきどきと高鳴る胸を押さえつけ、至極事務的な態度を貼り付けた。
「今、少し良い?」
「ええ、少しなら」
「あっちへ」
「ここでは?」
「話せない」
まさか、私を好きになった?この、平凡を絵に描いたようなマーガレットを?たった、あれだけの動機で?
「僕はアンドリッサ様をお慕いしてる」
「ほえぇ」
予想の斜め上の発言に、思わず喉から変な音が出た。




