ヤキモチと新たなる攻略対象。
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魔法学にも随分と慣れたけれど、その代わりに退屈で仕方ない。結局、本腰を入れて突き詰めようという魔法使いはおらず、あくまで物語を彩るエッセンスとしての使われ方しかしていない。
私が生きているのは「死は二人を分つこと勿れ、それは愛のシュプリーム」という乙女ゲームの世界、もう名前が長くて忘れかけていたけれど、とにかくここでは攻略対象とのイベントが全て。ご都合主義的に魔法が用いられていたせいなのか、実際暮らしてみるとほとんど役には立っていない。
魔力を有する人間は希少であり、そもそも発動には必ず魔石が必要となる。高価で手に入りにくいそれを用いるよりも、普通に暮らして普通に剣術の腕を磨き戦った方が、要は手っ取り早いというわけだ。
そんな世界では、魔法学に大した学びはない。以前火災を防ぐ為、エドガーと共に訓練を積んだおかげで、私は教師よりも遥かにコントロール技術を身に付けていた。
「……そう、エドガーのおかげで。ね」
私よりも二列前の席に座り、ぴしりと背筋を伸ばしている彼の後ろ姿は、眺めているだけで胸が高鳴る。それは私だけではなく、絶世の美男子に誰もが釘付けだった。
「エドガー様。ここが分からないのですけれど」
「ああ、それなら」
リリアンナは今日もどっしりと隣をキープし、まるでスライムのようにねばねばと纏わりついている。婚約者の存在など歯牙にもかけず、自らの欲望をぶつける様は見ていて気持ちの良いものではないけれど、しみったれた私よりも幾分マシなのではと思う。
彼の幸せを、心から願う。なんて所詮は私のエゴでしかない。いや、それでも決めた。どうせなら、当たってから砕けてやろうと。
前世は一人孤独で、乙女ゲームにのめり込んだシナリオもなしに生身の人間と向き合ったことのない私には、掛け引きなんて高等技術は使えない。
「では、このページは?なんだか目が霞んで……」
「特に異常はないみたいだけれど」
「もっとよく見てください」
ええ。確かにその大きな瞳では、私と違って塵も埃も入りたい放題でしょうね。顔でも洗ってくればいいものを。
わざとらしくエドガーにしなだれかかる美少女リリアンナに嫉妬しながら、無意識に教科書のページをペラペラと捲り続けた。
さて。授業も終わったことだし、目当ての人物に会いに行かなければ。そう勇んで足を進めていた私の視界に、ふと何かが映り込む。どうやら男子生徒が、花壇の陰に隠れてうずくまっているようだった。
「あの、どうかされました?気分が優れないのなら、今すぐに先生を……」
驚かさないようそっと声を掛けると、その生徒も同じように緩やかな動作でこちらを振り返る。見覚えのあるオッドアイが、私をまっすぐに捉えた。
「ロイス・ベスター、……さん」
危うく敬称をつけ忘れそうになるほど、彼の瞳に魅了される。嵐が過ぎ去った後の空のような澄んだブルーと、色素の薄いエメラルド。髪は白髪で、陽の光に当たるとシルバーに輝く。紛れもなく、攻略対象の一人ロイス・ベスターその人だった。
ヒロイン二人とは学園で知り合うクラスメイトという立ち位置で、稀有な容姿のせいで孤独に生きてきた公爵家の長男。人嫌いで攻略難易度は誰よりも高いけれど、その分愛を知ったロイスの破壊力といったら、もう言葉では言い表せないほどに凄かった。
スペシャルエンドでは、継母が放った刺客に殺されそうになったところをヒロインが庇い死亡。すぐさま彼も後追いをするという、ハッピーとは程遠い最期。




