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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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聡い弟。

「ライオネル。学園には慣れた?言い忘れていたけれど、夏服姿も素敵よ」

 シャルロと別れ、私達は学園の端にある大きな銀杏の木の下へとやって来る。ここは避暑として丁度良い場所なのだけれど、校舎から少し距離がある為にいつも人がいない。大体の生徒は、庭園か噴水の辺りで涼を取っていた。

「ありがとう。マーガレットこそ、今日も可愛い」

「最近髪が伸びちゃって少し邪魔だから、切ろうかと思ってるんだけど」

 茶色の髪をくるくると指に巻きつける私を、ライオネルは眩しそうに目を細めながら見つめる。あの日、弟一人残して死ぬ運命を辿らなくてよかったと、こうして平凡な日常を繰り返す度に懐古する。


 そのせいで、リリアンナやアンドリッサと恋に落ちるルートはなくなってしまった。それでも、家族や昔馴染みの使用人達に囲まれ笑うライオネルを姿を見ていると、時折涙が出るほど嬉しいと感じる。

 この世界で、私はただのモブ。いや、それ以下の存在である為に、華やかな容姿もチート級の能力も持ち合わせていない。だからこそ、常に考え、間違い、自身のエゴと葛藤しながら日々を生きているのだ。

「さっきは助けてくれてありがとう。だけど、ダンテスさんってそんなに悪い人じゃないよ」

 滑らかな芝の上に、ライオネルがさっとハンカチを敷く。私は促されるままに腰掛け、代わりに自身のそれを隣に広げた。

「それでも、ダメだ。あの人は、もうすぐマーガレットを大好きになるから」

「まぁ、変な言い方」

「だって、見ていればすぐに分かるもん」

 昔から、ライオネルは聡い子だった。それは素晴らしい才能だけれど、だからこそ余計に傷付いてしまうこともある。姉として、この可愛らしい存在を生涯守っていきたい。


 その為に、両親がライオネルの婚約者を選ぶ席には毎回必ず同席し、あれやこれやと難癖をつけている。決して邪魔しているわけではないけれど、やはり釣書だけでは人間の本質は見えないから。

 家族を人一倍大切にするライオネルだからこそ、絶対に悲しい思いをしてほしくない。ブラコンを拗らせているのは、重々承知の上。

「ノチェスさんを想っているから、それはないわ。あったとしても、いっときの気の迷いよ」

「いや、違う。リリアンナ・ノチェスに良いところが一つもない」

「顔が素晴らしいわ。スタイルも、声も。それから、地位も」

 貴族同士の結婚に、本人の意思が反映されることは少ない。性格云々よりも、欲するのはその遺伝子。

 その点で言えば、リリアンナは正に申し分ない。まぁ、アンドリッサとは比べものにならないけれど。

「だけど、もしも本当にダンテスさんが私を気に入ってくれたら、それは悪いことばかりではないわ。将来の相手として、彼はフォーサス家にぴったりだもの」

「絶対に嫌だ!アイツがどうのこうのというより、マーガレットには結婚してほしくない!」

 普段礼儀正しく、こと上級生や教師から特に好かれるライオネルが、シャルロにだけは手厳しい。いわゆる、同族嫌悪というやつなのだろうか。


 ぴんと伸ばした長い脚をばたばたと動かしながら、ちらりと私の方に視線を寄越した。

「エドガー様以外とは、結婚してほしくない」

「ちょ、な、なんてこと言うのよ……っ!」

 唐突にとんでもない発言をする弟の口を、私は慌てて塞ぐ。まさか、ライオネルがそんな風に考えていたなんて夢にも思わなかった。

「殿下は、アンドリッサ様と婚約なさっているでしょう⁉︎」

「だけど、あの二人はそれを望んでいない」

「そんなことは関係ないの。哀しいけれど、これが現実なのよ」

 この国を出て、異国の景色を見てみたいと語ってくれたアンドリッサの表情を、今でも鮮明に覚えている。私だって本当は、彼女が自由になればいいと思っている。その為に一番ベストなのは、エドガーがリリアンナと結ばれること。婚約破棄となれば、あるいは希望を持てるかもしれない。

 けれどそうなれば、エドガーはきっと――。

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