鉄壁の守り。
「も、もう!恥ずかしいじゃないですか!」
「確かに、侯爵令嬢とは思えない顔だったな」
「まぁ、酷い!」
揶揄われたことに腹を立て、ふんとそっぽを向く。私よりずっと背が高いくせに、背中を丸めて上目遣いをして見せる姿が、あざとくてズルい。
「お前が嘘を吐くからだ」
「わ、私は別に……っ!」
「この俺がわざわざ聞いてやっているのに、嫌なヤツだ」
「頼んでいませんわ!」
攻略対象として接している時の彼は、こんなに意地悪ではなかった。初手の私への印象が「リリアンナの敵」だったから、扱いが酷いのかもしれない。
「ふふ……っ、もう」
けれど、どうしてだろう。恋だの愛だのという間柄ではないのに、前よりずっと楽しいと思うのは。
「ダンテスさん?」
急に黙り込んだ彼を、今度は私が上目遣いに見つめる番だった。てっきりしたり顔だと思ったけれど、シャルロの頬はほんのりと紅く色付いている。耳もひくひくと反応していて、口元は大きな掌に覆われていた。
「どうかされました?」
「……シャルロでいい。特別に許してやる」
「え?いえ、別に今のままでも」
急に名前呼びを許すなんて、何か魂胆があるとしか思えない。まぁ、シャルロには暗躍などという真似が出来そうにないので、怖いとは思わないのだけれど。
主人に忠誠を誓う大型犬にしか見えず、まるでブリーダーのような目線で「もっと良い人に可愛がってもらいなさい」と、頭を撫でたくなる。
「お前……っ!」
「ちょっと、急に大声を出すと驚きます!」
「あ、ああ。すまなかった」
素直に謝るところが、やはり憎めない。衝動には抗えず、つい彼の頭に手を伸ばす。よしよし、と掌を左右に動かすこと、シャルロはこれでもかといわんばかりにかっと目を見開いた。
「不快でしたか?すみません」
ぱっと手を退けると、彼はあ!と声を上げる。
「べ、別にもう少しくらいなら……」
再び頬を赤らめるシャルロの様子を見ながら、もしや不味い行動をしてしまったのではと気付いた瞬間、物凄い勢いで何かが私達の間に割り込んできた。
「シャルロ・ダンテス‼︎いくら歳上といえど、僕の大切な姉に手を出すことは許さない‼︎」
「あ、ライオネル」
彼の神出鬼没加減には、既に慣れている。シャルロの方もこれが初めてではないはずなのに、彼は今だにひっくり返りそうな程に体をのけぞらせていた。
「急に出てくるな!驚くだろう!」
「マーガレットに危害を加えようとしているからだ!」
「失礼な誤解をするな!」
ライオネルは、つい数ヶ月前に入学してきたばかり。大きな瞳を潤ませながら「ようやくマーガレットと一緒だ」と喜ぶ姿は、この世界で一番尊い。背丈も益々縦に伸び、可愛らしい顔立ちはそのままにほんの少し精悍さも加わって、すぐに女生徒達の噂の的となった。
けれど姉が私ということもあり、似ていないだの可哀想だの、散々な言われよう。ライオネルは「マーガレットの悪口を言うな」と、いちいち大袈裟に食ってかかるものだから、残念な人として今ではあまり騒がれなくなった。とはいえ、今だに婚約者のいない彼を密かに狙うハンターは、とても多いようだ。
「お前の弟は相変わらずだな」
ふう、と憂いを帯びた溜息を吐くシャルロだけれど、私からすればこの二人は同類だ。
「私に構わなければ、ライオネルも大人しくなりますよ」
「それは無理な相談だ」
「ノチェスさんの為に、そんなに私を排除したいのですか?」
「違う!い、いや、違わないか」
反射的にばっと立ち上がり、なぜか本人が驚いたように口元を抑える。
「マーガレット、僕とあっちへ行こう!」
「ええ、分かったわ」
シャルロに絡まれるのは嫌いではない。とはいえ、愛しい弟のお願いは無下に出来ない。
「ま、また明日も来るからな!」
「はいはい、どうぞ頑張って」
去り際に、もう一つ彼の掌にチョコレートを乗せる。それを力強く握り締めるものだから、溶けてしまわないか心配になる。ライオネルがぐいぐいと腕を引くせいで、後ろを振り向くことすら出来なかった。




