リリアンナの幼馴染。
「さぁ、リリアンナに謝れ!マーガレット・フォーサス!」
「ど、どうかしました?暑さにやられたのですか?」
「失礼な女だ!俺にも謝れ!」
アンドリッサと別れ魔法学の授業を受けた後、教室に戻ろうとしているところをまんまと捕まった。人気のない場所まで私を引っ張り、威圧感たっぷりに睨め付けてくるのは、ダンテス伯爵家の長男シャルロ・ダンテス。攻略対象の一人であり、リリアンナの幼馴染というポジション。
負けず嫌いでデリカシーがなく、けれどおおらかで優しい大型犬のようなタイプ。鮮やかな赤色の髪に、私と同じ茶色の瞳。背の高い美丈夫で、遠くからでも良く目立つ。
一見死とは無縁そうに見えるけれど、実は大変に嫉妬深い。ヒロイン編でも悪役令嬢編でも、ヤンデレへ覚醒する瞬間の振り幅が一番大きいキャラだった。キスを交わしながらゆっくりと湖へ沈んでいくラストは、普段とのギャップも相まってそれはそれはぞくぞくしたものだ。
リリアンナ編のシャルロは、悪役令嬢アンドリッサから大好きな幼馴染を守るべく常に体を張り、骨折までしてしまった。それを献身的に介抱する内に、幼馴染から少しずつ異性として意識するようになっていく。というシナリオ。
ちなみに現在のリリアンナは、エドガー以外眼中にない。それでもシャルロは健気に彼女を想い、不安分子を排除しようとこうして頑張っている。
「私は、ダンテスさんの敵ではありません」
「リリアンナを傷付ける人間は、全て俺の敵だ!よって、お前も敵!だから謝れ!」
「はぁ……、まったくもう」
一年もの間この調子だから、もう慣れた。とはいえ、面倒なものは面倒だ。
前世の私の最推しはエドガーだったけれど、シャルロのことだって好きだった。今もどれだけ嫌な態度を取られても、心のどこかで「可愛いね、ワンちゃん」という感情か抜けきらない。
「とりあえず落ち着いて。一緒にチョコレートでも食べましょう?ちょうど、傍にベンチもあることですし」
伝家の宝刀を取り出した私は、小さな巾着袋を見せつけるように彼の鼻先に突きつける。シャルロの態度は大変分かりやすく、途端に鼻をひくひくとさせながら、澄んだ茶色の瞳を輝かせた。
「お、俺はそんなものでは懐柔されないぞ!」
「あら、そうなのですか?せっかく、遠い異国の地よりわざわざ取り寄せた貴重な一品ですのに。ミルクが濃厚で、蕩けるような口当たりなのだと」
「蕩けるような……」
シャルロは、私と同じくチョコレートが大好き。シナリオ通りに進めている頃には、知り得なかった。今こうして関わるようになり、何かと絡んでくるのがうっとうしくて、ポケットにあったチョコレートを渡して誤魔化そうとしたのが事の発端。
口では文句を言いつつ、至極幸せそうな顔で頬張るその姿に、思わずきゅんとしたのは秘密。やはり本来は陽気で優しい性格で、リリアンナを思うが故の行動だったというわけだ。
「ダンテスさんのお話はちゃんと聞きますから。さぁ、こちらへどうぞ」
「ひ、ひと粒だけだからな。断じてチョコレートに釣られたわけではないからな」
「もちろん、承知しております」
二人でベンチに腰掛け、包み紙を渡す。口に入れた瞬間、それは美味しそうに破顔する彼の姿は、い見ても可愛らしい。
「これに関してだけは、お前を認めてやってもいいかもしれないな」
「いつも疑問に思うのですけれど、そもそもノチェスさんに何をどう謝れば良いのですか?私なんて彼女の相手にはなりませんよ」
「確かに、俺も同意だな」
あっという間に頬張った彼の頬は、まるでシマリスのようにぱんぱんに膨らんでいる。そんな顔をしているから、失礼なことを言われても然程腹は立たない。




