自分勝手な恋心。
「止めて……っ、止めてください!」
思わず頷いてしまいそうになる自分を必死に堪え、エドガーの胸元をどんと押す。それは簡単に絡め取られ、彼の指先と重なった。
「力が籠っていないのは、わざと?」
「ち、違……っ」
「君の止めてには、説得力がないな」
意地の悪い発言とは裏腹に、強引に合わせられた視線の先に映るエドガーは、今にも泣き出しそうに見える。
「気を引きたいのかと思えばそうでもないし、無防備なくせに触れようとすると逃げる。僕はもうずっと昔から、君に翻弄されてばかりだ」
「エドガー、様」
「嫌なら、ちゃんと拒絶しなよ」
彼の言う通り、私の行動は全て自己満足。エドガーとリリアンナが結ばれてほしいと思うのならば、私は今この場で、はっきりと線を引くべきなのだ。
「ですから、私は別に……っ」
そう、はっきりと。貴方とは恋に落ちないと。
「別に、エドガー様のことなんて」
「好きじゃない?」
ここまで来て、どうして「はい」の二文字が出せないのだろう。それで、皆幸せになれるはずなのに。
「その、はずなのに……」
エドガーの命を、犠牲にして。
「ごめん、マーガレット。君を泣かせたいわけじゃないんだ」
「謝るのは私の方なんです!こんなにずるくて、面倒で、自分勝手な人間なんて、エドガー様の方から見限ってください!」
ぼろぼろと涙を溢しながら、叫ぶように訴える。自分では言えない台詞を相手に言わせようだなんて、どこまで卑怯なのだろう。間違いだらけの選択をしてきた私だけれど、それだけは選びたくないと思ってしまう。
「お願いだから、僕に話してくれないか?マーガレットを苦しめているものの正体を」
「……そんなものはありません、全て私の我儘です」
この期に及んで、浅ましい嘘を吐く。心のどこかでは、きっとエドガーは私を見捨てないと高を括っていたのかもしれない。
「分かった。もう、これ以上の追及はしない」
離された手が、無意識に熱を追いかけようとする。胸元でぎゅっと握り締め、それは駄目だと自制した。
「とはいえ、軽はずみな行動は慎んだ方が良い。アンドリッサを想うなら尚更」
「はい、肝に銘じます」
「うん、素直でよろしい」
冗談めいた言い方も、私の心を和らげることはない。エドガーから逃げているのは自分自身であるのに、たったこれだけで拒絶されたような気分になるなんて。
「じゃあ、僕は戻るよ。鍵は渡しておくから、落ち着いたらおいで」
「あ、あの!」
「うん、なあに?」
エドガーの雰囲気が、いつも通りに戻った。それは安堵すべきことなのに、なぜかもう一度あの顔を見たいと思ってしまう。
私が欲しくて堪らないと願う、切なげな瞳も。
「先ほどは、庇ってくださりありがとうございました。一番に伝えるべきでしたのに、申し訳ありません」
「ううん、気にしないで。相手が君でなくても僕はああしたから」
「そう、ですよね」
既に彼の手は扉に掛かり、こちらを振り返ることもなく教室を出ていく。第一王子に対する礼もままならない私は、渡された鍵を強く握り締めた。
「だから、これでいいのよ。分かっているでしょう、マーガレット」
リリアンナやアンドリッサとして転生を繰り返してきた私は、死ぬことなんて怖くなかった。ましてや、相手は最推しのエドガー・ド・リオンヌ王子。一緒に死んでくれと乞われれば、何の迷いもなく首を盾に振っていた。
けれど、今は違う。死にたくないからこそ、ずっと努力してきた。ライオネルを孤独にさせない為、あの凄惨な火災事件も何とか未遂に終わらせたのだ。
このままエドガーと恋に落ちれば、きっと何かが起こる。アンドリッサを救った後は、私は彼に近寄らない。それが最善の策だと、何度も言い聞かせているのに。
「だって、好きになっちゃったんだもん……」
呟いた本音も、零れ落ちた涙も、誰にも届くことはない。それでも、今この瞬間だけは彼のことを想っていたかった。




