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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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35/88

自分勝手な恋心。

「止めて……っ、止めてください!」

 思わず頷いてしまいそうになる自分を必死に堪え、エドガーの胸元をどんと押す。それは簡単に絡め取られ、彼の指先と重なった。

「力が籠っていないのは、わざと?」

「ち、違……っ」

「君の止めてには、説得力がないな」

 意地の悪い発言とは裏腹に、強引に合わせられた視線の先に映るエドガーは、今にも泣き出しそうに見える。

「気を引きたいのかと思えばそうでもないし、無防備なくせに触れようとすると逃げる。僕はもうずっと昔から、君に翻弄されてばかりだ」

「エドガー、様」

「嫌なら、ちゃんと拒絶しなよ」

 彼の言う通り、私の行動は全て自己満足。エドガーとリリアンナが結ばれてほしいと思うのならば、私は今この場で、はっきりと線を引くべきなのだ。

「ですから、私は別に……っ」

 そう、はっきりと。貴方とは恋に落ちないと。

「別に、エドガー様のことなんて」

「好きじゃない?」

 ここまで来て、どうして「はい」の二文字が出せないのだろう。それで、皆幸せになれるはずなのに。

「その、はずなのに……」

 エドガーの命を、犠牲にして。


「ごめん、マーガレット。君を泣かせたいわけじゃないんだ」

「謝るのは私の方なんです!こんなにずるくて、面倒で、自分勝手な人間なんて、エドガー様の方から見限ってください!」

 ぼろぼろと涙を溢しながら、叫ぶように訴える。自分では言えない台詞を相手に言わせようだなんて、どこまで卑怯なのだろう。間違いだらけの選択をしてきた私だけれど、それだけは選びたくないと思ってしまう。

「お願いだから、僕に話してくれないか?マーガレットを苦しめているものの正体を」

「……そんなものはありません、全て私の我儘です」

 この期に及んで、浅ましい嘘を吐く。心のどこかでは、きっとエドガーは私を見捨てないと高を括っていたのかもしれない。

「分かった。もう、これ以上の追及はしない」

 離された手が、無意識に熱を追いかけようとする。胸元でぎゅっと握り締め、それは駄目だと自制した。

「とはいえ、軽はずみな行動は慎んだ方が良い。アンドリッサを想うなら尚更」

「はい、肝に銘じます」

「うん、素直でよろしい」

 冗談めいた言い方も、私の心を和らげることはない。エドガーから逃げているのは自分自身であるのに、たったこれだけで拒絶されたような気分になるなんて。


「じゃあ、僕は戻るよ。鍵は渡しておくから、落ち着いたらおいで」

「あ、あの!」

「うん、なあに?」

 エドガーの雰囲気が、いつも通りに戻った。それは安堵すべきことなのに、なぜかもう一度あの顔を見たいと思ってしまう。

 私が欲しくて堪らないと願う、切なげな瞳も。

「先ほどは、庇ってくださりありがとうございました。一番に伝えるべきでしたのに、申し訳ありません」

「ううん、気にしないで。相手が君でなくても僕はああしたから」

「そう、ですよね」

 既に彼の手は扉に掛かり、こちらを振り返ることもなく教室を出ていく。第一王子に対する礼もままならない私は、渡された鍵を強く握り締めた。

「だから、これでいいのよ。分かっているでしょう、マーガレット」

 リリアンナやアンドリッサとして転生を繰り返してきた私は、死ぬことなんて怖くなかった。ましてや、相手は最推しのエドガー・ド・リオンヌ王子。一緒に死んでくれと乞われれば、何の迷いもなく首を盾に振っていた。


 けれど、今は違う。死にたくないからこそ、ずっと努力してきた。ライオネルを孤独にさせない為、あの凄惨な火災事件も何とか未遂に終わらせたのだ。

 このままエドガーと恋に落ちれば、きっと何かが起こる。アンドリッサを救った後は、私は彼に近寄らない。それが最善の策だと、何度も言い聞かせているのに。

「だって、好きになっちゃったんだもん……」

 呟いた本音も、零れ落ちた涙も、誰にも届くことはない。それでも、今この瞬間だけは彼のことを想っていたかった。

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