自身の未来を守る為。
空き教室に連れて来られた私は、思いきり頬を膨らませる。エドガーは涼しい顔をして、私をソファーに下ろした。
「なぜ、鍵をお持ちなのですか」
「それは、ほら。こんなこともあろうかと」
あってたまるか。と内心悪態を吐きながら、じとりと彼に視線を向ける。
「私のことなんて、放っておいてくださればよかったのに」
「そうはいかないよ。あのままだと、興奮した猪みたいに教室で暴れ回りそうだったし」
「さすがにそんなことはしません!」
口ではきぱりと否定したけれど、自分でも何となく想像がついてしまうところが少し恐ろしい。
「君の気持ちも分かるけれど、あれは良くない。噂を助長させてしまう」
「私の噂なんてどうでもいいです。だけど、アンドリッサ様を悪く言われることが、どうしても許せなくて……」
本当に、それだけなのだろうか。アンドリッサの為という免罪符を盾に、別の感情をぶつけたいと思ったのかもしれない。
「僕はいつも、君の一番近くにいられない」
「それは、当然です。だって私達は……」
ああ、私って面倒な人間だ。これまでずっと人と関わって来なかったツケを、今払わされている気分だった。
「申し訳ありません、エドガー殿下」
しょんぼりと項垂れる私の頭上に、アンドリッサ顔負けの特大溜息が降ってくる。
「本当、マーガレットは面倒だね」
「わ、分かっています」
「そんな君が可愛くてどうしようもない僕も、もう手遅れみたいだけど」
急に穏やかな声色に変わったかと思えば、視線を上げろと言わんばかりに、エドガーは私の眼前でひらひらと手を振った。
「もしかして、ヤキモチ?」
「は⁉︎ち、違うに決まって!」
「ダメだよ、そんな無駄な感情」
認めたくないから、考えないようにしていた。そうすればするほど、心は歪に歪んでいく。
以前の私は、もっと軽い気持ちでエドガーと接することが出来たのに。リリアンナが現れてから、どうしてもそんな風に思えなくなっていく。
この世界は、愛しても死、愛されなくても死。彼と恋を始めることすら、命を懸なければならない。
今の私は、死にたくない。自分を守るだけで精一杯なのだ。
「無駄……、ですか。確かにそうかもしれません」
「ああ、そうだ。僕と君以外の誰かが、なんて想像をされていると思うだけで、腹が立って仕方がない」
「はい?意味が分かりません」
彼の言葉に傷付いていた私は、訝しげに眉を顰める。
「僕は、君の一番になりたいんだ。ただでさえアンドリッサやライオネルが邪魔なのに、これ以上君の頭の中に登場人物を増やさないでほしい」
「ど、どういう理屈なのですか」
せめてそこは、嘘でもヤキモチをやかれて嬉しいというべきなのではないだろうか。というよりも、いつものエドガーならそう発言しそうなものなのに。
戸惑う私の隣に腰掛け、どこまでも深い藍色の瞳に私だけを映す。
「僕以外、君の中から追い出して」
その瞬間、体の中心にぴりりと電流が流れたかのように、指の一本さえ動かせなくなった。私はこの台詞を、もう何度も耳にしている。前世でも、転生してからも、彼の薄い唇が紡いだ。
あんなに嬉しかったのに、今は耳を塞ぎたくなる。このままでは、私は彼と――。




