授業中、自作自演。
「ご覧ください、エドガー様!私は火魔法が扱えるのです」
魔力を有する者だけが学ぶことの出来る魔法学の授業は、リリアンナがいつも以上に積極的だ。自信の得意分野であるし、婚約者であるアンドリッサはいない。彼女にとって、これ以上戦いやすいフィールドはないのだろう。
「本当だ、発動も早いし火力も高い。様々な分野で役に立ちそうだね」
リリアンナには、確かに魔法の才能がある。ゲームの中では、彼女は庶民だった為に魔法石を手に入れることが出来なかった。けれど、今は公爵家の養女。成り上がり貴族とはいえ、魔法石を手に入れる術と資金は有り余るほどにあるだろう。
「エドガー様の水魔法と合わせれば、更に用途が広がりますわ。同属性では、あまり意味がありませんもの」
目の前のコップに魔法で水を注いでいる私に向かって、リリアンナは勝ち誇ったように言い放つ。
相手にしてはキリがないと、私は二人を見もせずに黙々と授業を受けた。
「マーガレット。一段と力の制御が上手くなったね」
こちらの気などお構いなしに、エドガーが話しかけてくる。
「ええ、まぁ。以前の火災騒動の際、私は限界まで魔力を使い果たしました。その時、体が自然と覚えたのでしょう」
「なるほど、さすが転んでもタダでは起きない子だ」
「嫌味ですか、それは」
いらいらとした物言いを隠さない私の態度に、教師までもがはらはらとした表情でこちらを見つめている。
いくら幼少期からの付き合いとはいえ、第一王子に対する態度としてはあまりにも相応しくない。分かっていても、唇が勝手に動いてしまうのだ。
「違う。君はどんな逆境もプラスに変えられる、素晴らしい才能の持ち主だと言いたいだけ」
「……私など、そんな風に仰っていただけるような人間ではありません」
もう話すことはないと言わんばかりに、口を噤む。ただ黙々と課題をこなしていくだけで、教師の説明はあまり耳に入って来なかった。
「では次に、魔法発動に置ける魔石の役割についてですが……」
ただぼうっと目の前を見つめていると、急にグラスに注がれた水がぼこぼこと反応を反応を始める。気付いた時にはもう遅く、甲高い音を立てて粉々に砕け散った。
「キャーッ‼︎痛い‼︎」
周囲の騒めきよりも、一等耳に響いたのはリリアンナの悲鳴。彼女は手元を押さえ、苦痛に顔を歪めていた。
「ノチェスさん、大丈夫ですか⁉︎」
「ガラスの破片が刺さって……っ」
「それは大変だ、すぐに医務室へ!」
血相を変えた先生が彼女の下へ駆け寄り、状況を確認する。私は何が起こったのか理解出来ないまま、どこか他人事のように眺めていた。
「あ、あの私……っ」
「酷い、どうしてこんなこと!」
違う、私は何もしていない。勝手に割れて、それがたまたまリリアンナに当たっただけ。
いや、間違いなく彼女の仕業。隙を見計らい、火魔法を発動させて瞬時に水を沸騰させたのだ。
「フォーサスさん、事情は後で伺います。今はノチェスさんの治療が最優先です」
「あの子ってほら、例の……」
「ああ、身の程知らずの」
彼女の取り巻き達が、これみよがしにひそひそと囁き合う。本人は辛そうな表情をして、わざとらしくエドガーにしなだれかかっている。アンドリッサ以外と特段親しくしていない私には、庇ってくれる友人もいない。
「分かりました、後ほど経緯を――」
「マーガレットは何もしていないと、僕がこの場で証言しよう」
今すぐリリアンナを張り倒したい衝動をぐっと堪え、冷静を装いながらそう口にした瞬間。エドガーが、庇うように私の眼前に立っていた。




