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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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28/88

学園入学、あの子の登場。

♢♢♢

 あっという間に時は流れ、私達は無事王立学園への入学を果たした。真新しい制服と、まだ皮の硬い鞄。随分伸びた茶色の髪を揺らしながら、燦々と注ぐ陽の光に思わず目を細めた。

「あら、マギー。朝からこんなところでぼうっとして、まだベッドの中にでもいる気分なのかしら」

「アン様、おはようございます」

 肩をとんと叩かれ振り返ると、この一年で益々美しく成長を遂げたアンドリッサが、輝かしい碧眼でこちらを見つめていた。


 第一王子の婚約者として完璧な彼女は、周囲から畏怖されている。マーガレットは至って普通の令嬢なのだけれど、近寄りがたいオーラを放つアンドリッサとよく行動を共にしているという理由で、初日から何となく目立っていた。

「今日も素晴らしい一日になると良いですね」

「そんな夢みがちなことを言っていないで、もっと真剣に授業を受けなさい」

「あ。そういえば昨日、ライオネルがチョコレートを差し入れしてくれたんです。次の休日、一緒に食べましょう」

 アンドリッサのお小言を軽く受け流して、私は言葉にリズムをつけながらそう口にした。

「まぁ、呆れた。入学してからまだ一週間しか経っていないというのに」

「だって、ここの食堂にはチョコレートがないんです」

「あのね、マギー。よくお聞きなさい。私達は、紳士淑女としてより完璧を目指す為に……」

 ずいっと詰め寄ってくる彼女から私を守るように、突然背後から腕が伸びてくる。顔を確認せずとも声を聞かずとも、雰囲気と香りですぐに誰だか気付いた。


「で、殿下。苦しいのでお止めください」

「おや。よく分かったね」

「当たり前です」

 耳元でふふっと嬉しそうな笑みが聞こえ、ひえっと肩を縮こまらせる。この一年あまりでさらに色気と蕩ける甘さを増したエドガーが、私の首元をがっしりと抱えていた。

「君達二人は本当に仲が良いね」

「マギーが私の手を煩わせるので、仕方なくですわ」

「私は、アン様といると楽しいです」

 歯を見せて笑うと、彼女はそっぽを剥きながら「そんな笑い方はしたない」と言って自身の持っていた扇子を差し出した。

「もう学園での生活には慣れましたか?エドガー殿下」

 さり気なく腕から抜け出した私は、必死に話題を変えようと試みる。

「生活での問題はないけど、マーガレットが余所余所しくなってしまったから、寂しいな」

「ふ、ふわあ」

「エドガー様!私の友人を誘惑するのはお止めください!」

 ボルドーの制服は、エドガーをより一層魅力的に見せている。拾ってほしいと懇願する子犬のような瞳を向けられると、一瞬にして思考が解けてしまう。

「表面上とはいえ、私達は婚約者なのですから。マーガレットの評判が下がるような行動は、謹んでいただかなければ」

「僕にとっては、その方が好都合だよ。余計な横槍を入れる羽虫が減るからね」

 ひい、と悲鳴を上げそうになったのを、アンドリッサから渡された扇子で口元を覆うことで何とか防いだ。

「……エドガー様は、きっと名君になられますわ」

「あはは、それは嬉しいな」

 ああ、二人のやり取りは相変わらず肝が冷える。昔と違うのは、ここに参戦する人物がライオネルから()()()に変わったという点だけ。

 いつもの流れでいくと、そろそろ現れても良い頃なのだけれど――。

「エドガー様!おはようございます!」

 私の予想は、ぴたりと的中する。まるでジャスミンの花畑に迷い込んだかの如く、華やかで魅惑的な香りが辺りを包む。その中心となる一人の女生徒が、可愛らしい仕草でこちらにやって来た。

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