表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/88

絡み合う複雑な想い。

「私には決して、その座に取って代わりたいという意図はないのです」

「……そんなことは、分かってる」

 澄んだ藍色の瞳を見つめられると、まるで湖の底に引き摺り込まれているような感覚に陥る。心底では自身もそれを望んでいるのだと、思わず彼の手を取ってしまいそうにも。

「だから僕は、君に興味を持ったんだ。一見普通の令嬢なのに、どこかミステリアスで考えが読めない。僕を好いているかと思えばそうでもなくて、何かとちょっかいをかけて来るくせに本音を見せない」

「……私に、腹を立てていらっしゃるのですか」


 エドガーから距離を取ろうと、少しずつ後退る。とん、と背中が壁に当たり、それ以上逃げられないと私の体を拒んだ。

「君から、僕に近付いてきたんだ」

 再び、エドガーの綺麗な指先が伸びてくる。

「ちゃんと責任を取って、マーガレット」

 いつもとは違う掠れた声に、私は視線を逸せなくなった。思考が放棄し、頭が真っ白になる。息さえ詰まるこの瞬間、それを補うかのように彼の唇が鼻先に迫る。

 むせ返るような甘美な香りは、甘ったるいチョコレートを彷彿とさせた。

「い、いずれ貴方には、もっと相応しい女性が現れます。その時には、私はもう二度と貴方の前に姿を現しません。だから、もう少しだけ……」

「ああ、なんて酷い子なんだ」

 どうすれば、逃げられるのだろう。激しく脈打つ鼓動も、熱く熱を持つ喉元も、震える唇も、全てが彼を求めている。ダメだと理解しているはずなのに、無意識に惹きつけられる。

「君は僕に、何を望んでいるの?」

「それは……」

 リリアンナと、結ばれてほしい。自身の家族とアンドリッサさえ助かれば、二人はどうなっても構わない。そんな風に考えていた自分自身が、悪魔のようだと思えた。


 エドガーにも心があり、人生がある。私がマーガレットとして生きているように、目の前の彼も確かに今を生きている。これまでゲームシナリオに沿うことだけに命をかけてきたけれど、今回だけは違う。

 彼を犠牲にする未来を、私は本当に望んでいるのだろうか。

「……いいえ、そんなことないわ」

 無意識の内に手が伸び、彼の陶磁のような肌にそっと触れた。頬がぴくりと反応し、藍色の瞳が揺れた。

「私は、貴方にも幸せに生きてほしいです」

「マーガレット……」

「そんな顔をさせてしまって、ごめんなさい」

 他人の婚約者に触れるなど、あってはならない。けれど今この瞬間だけ、指先から想いが伝わればいいと願った。

「これからは、もっとエドガー様の気持ちに寄り添いたいです」

「また、そんな可愛いことを言って」

「アンドリッサ様との婚約解消を望まないのであれば、そうおっしゃってください」

 反省など今さら遅いと分かっていても、言わずにはいられなかった。この数年で、彼の存在がどんどん私の中で膨らんでいるのだと、認めたくなかっただけ。

 大切な人を増やすほどに、マーガレットは生き辛くなっていくから。


 彼から離そうと下ろした手は、すぐに絡めとられる。滑らかな頬とは違う、存外ゴツゴツとした男らしい肌触りに、思わず胸の奥が跳ねた。

「僕の望みは他にあるって、分かっているくせに」

「……離してください」

「アンドリッサも、他の女性も欲しくない」

 これ以上は、本当にダメ。少しでも唇を尖らせれば、すぐに触れてしまうようなこの距離は。頭の中がめちゃくちゃに荒らされて、おかしくなってしまいそう。

「マーガレット、僕は」

「や、やめ」

 逸らした視線を追いかけられた所で、再びノックの音が響く。私は一瞬の隙を突き、壁とエドガーの間からするりと抜け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ