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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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不意打ちで最推しが登場。

 その時、こんこんと扉のノック音が部屋に響き、アンドリッサがすかさず顔をしかめる。大方、恒例のごとくライオネルが邪魔をしにきたと思っているのだろう。

「ライオネル、入っても構わないわよ」

 彼女と同じことを考えた私は、そんな風に声をかける。ところが、ひょこりと顔を出したのはライオネルではなくエドガーだった。


「エ、エドガー様……⁉︎」

「やあ。アンドリッサ、マーガレット。本日も眩いばかりの美しさだね」

「それは確かに」

「もちろん、君も含まれているよ」

 そんな、まさか。今日も今日とて、エドガーは夏の太陽をも凌駕するほどに輝いている。アンドリッサは隣に並んでも何の違和感もないけれど、私はたちまち蜃気楼のようにぼやけてしまう。

「それよりも、本日はなぜこちらに?」

「ううん。何となくアンドリッサがいるような気がしたから、かな?」

 こてんと首を傾げる仕草は大変に魅力的で、今なら何をされても許してしまいそうだと思ってしまった。


「随分と都合の良い偶然が起こるものですわね」

「おや、アンドリッサ。不服そうな顔だね」

「考え過ぎではありませんか?」

 今日の彼女は、いつにも増して当たりが強い。エドガーは温厚なタイプだけれど、それでもヒヤヒヤしてしまう。

 ともかく、第一王子の訪問となればもてなさないわけにはいかない。メリルに確認を取ると、既に応接間の準備は整えてあるとのことだった。

「エドガー様。こちらではなく応接間に……」

「ねぇ、マーガレット」

 すらりとした長い脚が、こちらに向かって踏み出される。あっという間に距離を詰められ、視線を逸らす暇さえ与えてはくれなかった。

「僕を頼ってはくれないの?」

「あ、あの。一体何のことやら」

「……ふうん?そうくるんだ」

 さすがに王子は頼れない。現状ではアンドリッサの婚約者であるし、そうでなくとも身分が違い過ぎる。ただでさえ多忙を極める彼に、余計な心配はかけられなかった。というより、あまり仲良くしたくない。


「アンドリッサ様、少々宜しいでしょうか」

 正に今私とエドガーの間に割って入ろうとしていた彼女を、フォーサス家の執事が呼び止める。何でも、コンドルセ公爵からの使いが可及の要件だとこの屋敷を訪ねてきたらしい。

「エドガー様。あまり過度なお戯れはどうぞお控えくださいませ」

「そんなに妬かなくても、僕の一番は君だよ」

「……ちっ」

 完璧と謳われる公爵令嬢しからぬ音が聞こえたような気がするけれど、エドガーは涼しい顔をしてひらひらと手を振っていた。

「まさかとは思いますが」

「まぁまぁ、気にしないで」

 スラックスのポケットをぽんと叩くと、微かに金貨の擦れる音がする。いつぞやと同じく買収したのだろうと推察し、目の前の美少年を恐ろしく感じた。

 というよりも、フォーサスの使用人は少々王子に飼い慣らされ過ぎている気がする。


「また邪魔が入る前に、君との時間を楽しもうかな」

 全く悪びれる様子もなく、エドガーはこちらに手を伸ばす。さり気なくそれを躱しながら、この場を切り抜ける方法を必死に模索した。

「婚約者様を邪魔者扱いしてはいけません」

「マーガレットが僕に頼んだんだよ?アンドリッサとあまり距離を縮めないでと」

「それについては……、感謝しております。何らかの計略を図っていると、処罰されても仕方ないことを申しました」

 今思えば、無鉄砲だったと思う。私の知るエドガーは身も心も正に王子に相応しく、他者を慮る優しさを持った情に厚い性分だ。その反面称賛されることを嫌い、常に重圧に押し潰されそうになっている。

 誰にも打ち明けられなかった思いをヒロイン二人が受け入れ、最期は共に死を選ぶというエンドが最高に好きだった。

 とはいえ、今の私はアンドリッサの友人。リリアンナが現れるまでは、ストッパーとして間に割って入るより他はない。

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