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ヤンデレ満喫中のはずが。

 最初の私は、リリアンナ・ミネルバだった。人生はおおよそストーリー通りに進み、ゲーム内で発生しなかったイベント等についても「リリアンナだったらこうするだろう」という行動を取れば、上手くことを運ぶことが出来た。

 まずはセオリー通り、この国の第一王子であるエドガー・ド・リオンヌの攻略に成功。彼を手に掛けたのちに、毒を飲んで自害した。次に目覚めた時の私は、アンドリッサ・コンドルセとして存在していて、再びあの幸せが味わえるのかと人知れず感涙した。選択キャラに悩んだけれど、次は幼馴染であるシャルロ・ダンテスの攻略に挑み、これも成功。彼と駆け落ちからの心中コースで、無事に召された。

 その後はリリアンナに再転生、そしてまたアンドリッサに……を繰り返し、最早これは転生と呼んでいいものか、まるで友人の家のように気軽に行き来している。もっとも、前世の私に友人はいなかったけれど。

「ねぇ、リリアンナ。君だけが本当の僕を見てくれる。もう二度と、この瞳に君以外を映したくないんだ」

 正に今、私は死に直面している。主な登場人物が通う学園で、ヒロイン二人はロイス・ベスターと出会う。彼は由緒ある公爵家の産まれでありながら、兄弟の中で唯一目と髪の色が違った為に、家族から冷遇されていた。リリアンナの立ち位置では彼を受け入れ、アンドリッサの立ち位置では共に家族に立ち向かった。

 現在の私はリリアンナで、今回はスペシャルエンド。初めて出会った教室の片隅で、二人寄り添っていた。

「ロイス。私の全てを、貴方に捧げるわ」

「ああ、リリアンナ……」

「ずっとずっと、側にいる」

 迷いなく口にすると、ロイスは震える手で私の頬に触れる。互いの瞳には、愛する人ただ一人が映し出されていた。

「君を愛してる、永遠に」

「私も愛しているわ」

 そっと交わした口付けは、永遠にも似た時間。幸福感に思わず涙が流れ、同時に腹部に鋭い痛みを感じる。ナイフで刺されたのだと理解するよりも先に、ふわりと意識が霞んでいった。

「ロ、イス……」

「安心して、リリアンナ。僕もすぐにいくよ」

「ああ、嬉しい」

 私と同じように満ち足りた表情で微笑むロイスを、心から愛しく思う。一切抵抗することなく、そのままゆっくりと瞼を閉じた。ゲームと寸分違わず、完璧なエンディング。私にとっては、正に「シュプリーム(至高の)」瞬間だった。


 ――もう、この感覚を何度経験しただろう。重力を無視して体がふわふわと浮いているようで、なんだか落ち着かない。どうやら今回も、死亡エンドを迎えると再びループするらしい。リリアンナとしてクリアしたから、次はアンドリッサとしての人生だ。

 死に過ぎて回数も定かではなくなってきているけれど、確かこれで十回目。義弟であるライオネルを攻略すれば、スペシャルエンドは全てコンプリート。これは、かなりの達成感が味わえる気がする。

「ん……」

 毎回、始まり方もゲームと同じ。十歳の誕生日に自室のベッドの上で目を覚ますところから始まる。

 私は体を起こすと、ぐぐっと伸びをして辺りを見回す。さすがに、もう五回目のアンドリッサだし全部完璧に理解して……。

「この部屋、アンドリッサじゃない」

 この世界の言葉遣いや礼儀作法にもすっかり慣れたはずなのに、驚きのあまりつい前世の口調に戻ってしまった。

 公爵令嬢に相応しい絢爛な部屋ではない。ゲームの中でもこの目でも見てきたんだから、見間違えたりしない。センスのいい調度品が並べられた、女の子らしい部屋。広さから鑑みても、貴族の住まいであるのは明らかだ。

「そうだ、鏡」

 ベッドからぴょんと飛び降りて、背丈よりずっと大きな姿見を見上げる。その瞬間叫び声を上げそうになり、慌てて両手で口を押さえつけた。

「これ……、誰……⁉︎」

 ガバッと鏡に顔を寄せて、自分の顔をまじまじと見つめる。手で触っても、指で摘んでも、何ら変化は起こらなかった。

 リリアンナではなく、アンドリッサでもない。十歳よりももっと幼く見えるし、これまで経験してきたループとは何もかもが違っている。

 ありふれた茶色の髪と瞳。子どもらしく可愛らしい顔立ちをしているけれど、ヒロイン二人には遠く及ばない。ゲームの記憶を片っ端から引っ張り出してみても、こんなキャラは出てこなかったと断言出来る。

「これしか趣味がなかった私が言うんだから、間違いない」

 軽いホラーゲームともいえる「死は二人を分つこと勿れ、愛のシュプリーム」を何百時間とプレイしてきた私だからこそ、胸を張って断言出来るのだ。

「何でこうなっちゃったのか、全然分からない」

 ぎゅっと目を瞑って、そろりと開ける。鏡に映るのは、やはり知らない顔だった。

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