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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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19/88

私の大切な家族。

――そんな日常を送りながら、私は夜の見回りを始めた。昼間淑女教育やその他のレッスンをこなしつつ、我が屋敷へ出入りする商人達を裏口で見張る。使用人部屋へもしょっちゅう顔を出したり、誰彼構わずに話しかけたりしているところを母に見つかって、こってりと絞られることもしばしば。


「マーガレットお嬢様は、明るくて話し上手ですね」

 もう、何人にそう言われたか分からない。一人を寂しいとも感じないくらいに慣れていた私が、まさかそんな風に表現されるなんて思ってもみなかった。

 沿うべきシナリオも何もない、私の意志のみが未来を変える。それはとても怖いことではあるけれど、同時に楽しくもあった。

「やっぱり、怪しい人はいないみたい」

 警護人達の目をかい潜り、小さなランタンを手に屋敷を見て回る。何か探知機能のような便利な魔法が使えたら良いのに、そんなものは存在しない。あったとしても私には使えないから、地道に警戒するしかないのだ。


 夜の見回りを始めてから、早数ヶ月。季節はすっかり夏を迎えたけれど、この世界の夏季は比較的過ごしやすくて助かる。

 部屋が友達だった私には、極端な暑さや寒さに耐性がないから。

「何かもっとこう、てっとり早い方法はないかしら」

 毎日毎日同じことの繰り返しで、つい気が抜けてしまった私。足元をすーっと何かが通り抜け、それが鼠だと気付いた時には思わず悲鳴を上げそうになった。

 何とかそれを飲み込んだ代わりに、肘が飾り棚にぶつかり音を立てる。すぐさま警護人がそれに気付き、足音を立てながらこちらに近付いてきた。


「マーガレット、こっち」

 慌ててランタンの火を吹き消したと同時に、誰かに腕を強く引かれる。それがすぐにライオネルだと分かり、私は安心して彼に身を任せた。

「もう、向こうへ行った?」

 廊下に並べられている甲冑の後ろにしゃがみ込み、ぎゅうっとライオネルにしがみつく。私とは違う規則正しい心音が、少しずつ心を落ち着かせてくれた。

「うん、もういいみたい」

「ありがとう。見つかったら、またお母様に叱られるところだったわ」

「とか言って、それが嬉しいくせに」

 可愛い私の弟は、何でもお見通しらしい。彼の言う通り、誰かに気にかけてもらえることが私は嬉しかった。

「ところで、貴方はこんな時間に何をしているの?」

「マーガレットの跡を付けてるに決まってる。言っておくけど、おそらく初日からずっとだよ」

「うそ!」

 全く気が付かなかった。ライオネルには私と違って、隠密の才能が備わっているらしい。


「ここのところ、ずっと火事を気にしているよね」

「そ、そこまで知っているの⁉︎」

「銅材や煉瓦を大量に集めるなんて、不審過ぎるんだもの」

 確かに、言われてみれば。とにかく燃えにくい材質のものをと、庭師に頼んで裏庭の倉庫にせっせと運んでいた。

「水魔法の練習も」

「ああ、それも……」

 ライオネルは、諜報員の資質まで兼ね備えていた。

「アンドリッサ様を助けた日から、ずっと不思議だったんだ。必死だったとはいえ、練習もなしにあんなことは出来ない。魔石だって、普通は持ち歩かない」

「まぁ、そうよね」

 白状したところで、信じてはもらえない。てっきりもっと詰られるかと覚悟していたけれど、意外にもライオネルはそれ以上の追及はしてこない。

「僕に隠しごとは無理だって、いい加減に気付かないと」

「どうやらそうみたい」

「何を背負っているのか分からないけど、その細い肩じゃ無理だよ。僕も一緒に抱える、そのくらいは出来る」

 守りたい存在だった可愛い弟は、いつの間にか私が思うよりもずっと逞しく成長していた。

 それはとても嬉しくて、ほんの少しだけ寂しい。

「詳しくは言えないけれど、近々この屋敷が火災に見舞われるような予感がするの」

「予知夢を見た、とか?」

「ええ、それに近いわ」

 ライオネルは、一切私を疑わない。


「……ごめんね。相談も出来なくて、一人で勝手に」

「少し寂しかったけど、マーガレットが家族を何よりも大切に思っているのは知ってるから」

「ありがとう」

 胸がいっぱいで言葉に詰まる私を、ライオネルが優しく抱き締める。ずっと堪えていた涙が、ぽろりと溢れて落ちた。

「一人で抱え込まないで」

「ええ、分かったわ」

「僕達だって、マーガレットを失ったら生きていけないんだから」

 愁色の滲んだ彼の瞳に移る自分が、酷く小心で情けなく見えた。

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