時は経ち、摩訶不思議な関係。
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それからまた月日は流れ、私は十一歳を迎えた。ライオネルも十歳となり、火災に巻き込まれるであろう年まで、後りは一年に迫っていた。
「やぁ、マーガレット嬢」
「エドガー殿下、ご足労感謝致します」
出会ってから約二年。紆余曲折あったようななかったような、ともかく彼とアンドリッサが会う時には、なぜか我が屋敷を使うようになっていた。
婚約者二人の逢瀬をことごとく邪魔し続けた私は、側から見れば明らかに横槍を入れている性悪な令嬢。けれど当のアンドリッサがそれを嫌がるどころか、何かある度にマーガレットの名前を出し、勝ち誇ったような瞳で「あの子は私がいなければ生きていけないの」と断言する。
これにより私は彼女の腰巾着的存在と思われ、仲を取り持てと命令されているのだろうと囁かれた。
周囲からどんな風に思われようと一向に構わないのだけれど、それよりもこの二年で様変わりしたエドガーの態度の方が私を悩ませていた。
「随分余所余所しい物言いだね。マーガレット」
彼は私の腕をくいっと引き寄せ、耳元で甘く囁く。そしてさらに、こう続けた。
「君の願う通り、アンドリッサを愛する振りをしている僕を、もっと褒めてほしいな」
「は、はひぃ」
「ああ、可愛い」
いつの間にか私を呼び捨てるようになったエドガーは、遺伝子レベルで完璧だった。造形はもちろん、纏う空気感、放つ香り、視線から漂う色香その他諸々。
私の行動を読みきった彼は、いつだったか私を呼び出し「アンドリッサと僕をどうしたいの?」と問いかけた。考えあぐねいた末に「仲良くしてほしいけどあまりしてほしくもない」とバカ正直な珍回答をしてしまった私の目の前で、なぜかエドガーは涙を流しながら大笑いしていたのだ。
そして、その要求を呑む代わりに「僕を楽しませて」などというふわっとした交換条件を私に提示して来た。
こうして、婚約者二人プラスマーガレットという奇妙な関係が成り立ったというわけだった。
「君の瞳は僕に見惚れているくせに、他の令嬢とは何かが違う。そういう、単純に見えて案外複雑そうなところが、僕は好きだよ」
一瞬の隙を突いてするりと彼の腕から抜け出した私。くすくすと笑う絶世の美少年の破壊力は凄まじく、気を抜けば「私と死にましょう」と口走りそうになるのを必死に堪えるというのは、最早恒例行事と化していた。
「アンドリッサ様も間もなく到着されるかと」
「ふぅん、そうなんだ」
さして興味もなさそうな声を漏らしたエドガーは、またすぐに私に向き直る。
「今日は珍しいお菓子を持って来たんだ。君がチョコレート好きなのは知っているけれど、たまにはと思って」
「それはそれは、楽しみですわ」
彼が私の反応を揶揄っているだけというのは分かっていても、泡を吹いて倒れそうになるくらいには恥ずかしい。リリアンナやアンドリッサだった頃には、戸惑いなく受け入れられたというのに。




