二人の仲を邪魔したい私。
その日からというもの、私はより一層魔法の訓練に力を入れ始めた。誰かに教わりたいと思いながらも、それは叶わないまま。特にお母様には見つからないよう、庭の隅っこでひたすら地面に向かって水を注いでいた。部屋を水浸しにするわけには、いかなかったからだ。
そして、アンドリッサとの交流もますます増えていった。エドガーに関する本音を私に打ち明けたことで、彼女は一層私に心を許したらしい。相変わらず口ではつんつんと攻撃してくるけれど、帰れと言いつつ手を掴んで離さないような、天邪鬼な所も可愛くて仕方なかった。
「私、今日は頑張ります!」
ふんと拳を高く突き上げる様子を、隣に座るアンドリッサが冷ややかな目線で見つめている。現在私と彼女は、なんと王家の所有する別邸に来ているのだ。それはなぜかと問われると、邪魔したいからに決まっている。
初めに招待されたのはアンドリッサで、彼女からそのことを溜息混じりに聞いた私は、着いていくと駄々を捏ねた。
ダメ元で殿下に聞いてみて?と潤んだ瞳でアンドリッサにねだると、彼女は被弾でも受けたかのようにうっと胸を押さえながら頷いた。エドガーからはあっけなく了承された為、こうして二人で出向いたというわけだ。
「それにしても、あのライオネルがよく許可したわね」
「黙って来たに決まっています」
まさか弟も一緒にとは流石に言えず、かと言って正直に話せば泣き落としの手を使われる確率が高い為、母に協力を要請し適当な理由を付けて屋敷を出て来た。
「……私は知らないから」
アンドリッサが渋い顔を見せた直後、応接室の扉がノックされる。
「やぁ、二人とも。今日も変わらず美しいね」
「うっ!」
きらきらと輝く飛沫が何かが飛んでいるのではと勘違いするほどに、本日のエドガーも大変に麗しい。いつぞやのアンドリッサのように、私は思わず両手で胸を押さえた。
「エドガー様、ご機嫌麗しゅう」
「う、うるわしゅう」
即座に立ち上がり完璧な所作を見せるアンドリッサを真似したくても、片言の挨拶しか出てこない。エドガーはくすくすと笑いながら、掌をソファに向け座るよう促した。
「来てくれて嬉しいよ、アンドリッサ。もちろん、マーガレット嬢も」
「急な人数変更を受けてくださり、感謝申し上げます」
「相変わらず硬いな、君は」
第一王子の婚約者を完璧に演じることを良しとするアンドリッサは、私の前とは表情が全く違う。あまり心を開き過ぎてもよくないけれど、頑な過ぎてもバッドエンド不可避となる。学園入学まで後五年もあるのだから、それまで私がしっかりと調整しなければ。まだ先の話とはいえ、油断は禁物。
「早速ティータイムにしよう。アンドリッサから、君はチョコレートに目がないと聞いて取り寄せたんだ」
「チョコレート⁉︎」
淑女の何たるかも忘れて、がたっと音を立てて立ち上がる。内心羞恥に悶えながら、しゅるしゅると縮こまった。
「も、申し訳ありません」
「ははっ、構わないよ」
当然怒りもしないエドガーは、綺麗な顔をして微笑むだけ。幼いながらに破壊力抜群のそれは、しっかりと私の心のスイッチを踏み抜く。この笑みが暗黒サイドに落ちる瞬間が、堪らなくゾクゾクするのだ。
「はぁ……」
思わずうっとりと溜息を吐いていると、太ももの辺りに鋭い痛みが走る。
「いたい!」
「えっ、どうしたの?」
「何でもありませんわ、エドガー様」
その原因であるアンドリッサは、口元を扇子で隠しながらほほほ、と優雅に微笑む。つねられたおかげで正気を取り戻せたのだから、後で彼女に礼を言おうと内心胸を撫で下ろした。




