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ヤンデレ乙女ゲームのモブ令嬢は、最推し王子の誘惑を全力で拒否したい。  作者: 清澄 セイ


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13/88

自己満足な結論。

 結局、右腕をがっちりと掴まれた私はそのまま客室にてお茶をいただき、エドガーの見送りまで付き合わされた。ライオネルは不満たらたらだったけれど、アンドリッサに頼られること自体は悪い気はしない。

「せっかく婚約者と会えたのに」

「私はマギーと遊びたかったわ」

 疲弊している様子の彼女は、いつもよりずっと素直だった。

「ここだけの話だけれど、私エドガー様といると息が詰まるの」

「アン様が?自他共に認める完璧なご令嬢ですのに」

「そんなことは当たり前よ」

 尊大に胸を張りながらも、その横顔はどこか憂いを帯びていた。

「分かっているわ。必要とされているのは私自身ではなく、公爵令嬢アンドリッサ・コンドルセだと」

「アン様……」

「それをまざまざと突きつけられているような気分になるのよ」

 確かに、ゲーム内でアンドリッサは終始苦しんでいた。厳格な両親、無駄に媚びてくる周囲の人間、弱音も吐けない婚約者。スペシャルエンドを迎えるたび、彼女は「愛のある死」という結末でその苦悩から解放されていた。

 それこそがこのゲームの美点なのだけれど、実際に辛そうなアンドリッサを目の前にすると、果たして本当に彼女は救われたのだろうかと、思わず首を傾げたくなる。

「私はあの日、アン様を助けることが出来て本当に良かったと思っています。こうして友人関係になれて、私は幸せです」

「な、何よ藪から棒に」

「どうか、いつまでも長生きしてください」

 唐突過ぎると分かっていても、唇から勝手に溢れてしまった。アンドリッサは数度瞬きを繰り返した後、口元に手を添えふふっと微笑んだ。

「ええ、そうね。貴女に救われた命ですもの。大切にするわ」

 その笑顔は、これまでに見たどんなスチルよりも可愛らしく輝いていた。

 コンドルセ家を後にし、私とライオネルはがたごとと馬車に揺られながら自家を目指す。彼はいつも「何かあったらすぐに守れるように」と、私の隣に座る。今日はことさらに距離を詰め、にこにこと嬉しそうに笑っていた。

「やっとお姉様と二人になれた。まさか、エドガー殿下にお会いすることになるとは思わなかったね」

「ええ、そうね」

 ぼんやりと車窓を見つめながら、気もそぞろに生返事を返した。

「どうかした?疲れちゃった?」

 案じるような声色で、こちらを覗き込むライオネル。彼に視線を移すと、なぜだかぎゅうっと胸が締め付けられた。

「ねぇ、ライオネル。私、貴方のことが大好きよ」

「僕もです、マーガレットお姉様!」

「今この瞬間が、一番幸せなの」

 だから、手放したくないと思う。家族も友人も、自身の命も。

「アン様とエドガー様の婚約を破棄させる方法って、何かないのかしら」

 弟の手を握りながらぽつりと呟くと、ライオネルがこれでもかと目見開きあんぐりと口を開けた。

「今のセリフを聞かれたら、首と体が離れるよ!」

「やっぱりそうよねぇ」

「まさかお姉様、エドガー殿下に一目惚れを……⁉︎」

 その問いかけに違うと否定しようとしたら、私より先にライオネルがぶんぶんと首を左右に振る。

「そんなのあり得ない!絶対ない、ねぇ⁉︎」

「どちらかというと苦手だわ」

「だと思った!誰だよ、変なこと言い出すヤツは」

 何が面白いのか、彼は大笑いしながらべしべしと自身の膝を掌で打っていた。

「アン様が幸せになれるよう、手伝いがしたい」

「将来の王妃だよ?幸せは約束されてる」

「それは表面上の話よ」

 この世界で当たり前の価値観も、私にとっては違う。家名の為の結婚が当たり前だとしても、出来ることなら少しでも彼女の力になりたい。

「……そうだわ。良い案を思い付いた」

 来たる学園入学の日に、もう一人のヒロインであるリリアンナとエドガーが出会うように仕向けるのだ。今の内から信頼を得ておけば、彼女を推しても不審に思われないかもしれない。

 生贄を差し出すようで申し訳ないけれど、今の私はアンドリッサが大切だ。彼女を死なせない為には、エドガーにリリアンナを選んでもらわなければ。

 とすればやはり、目下の目標は火災の阻止。これをどうにかしなければ、誰一人救うことは出来ない。

「ライオネル!死んじゃ嫌だからね!」

 がばっと襲いかかってきた姉を邪険に扱うこともなく、彼は嬉しそうに抱き締め返してくれた。

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