かつての最推し・エドガー登場。
「やぁ、マーガレット嬢にライオネル令息。僕の婚約者が命を救われたと聞いたからには、無視は出来ないと思ったんだ」
爽やかな春の風よりもさらに清爽の気に満ち溢れた、まごうことなき正統派美少年。藍色の髪と瞳を持ち、透き通った透磁肌に声までもが迦陵頻伽の如く。少し盛り過ぎなのではと製作陣に突っ込みを入れたくなるほど、エドガーの完成度は高い。
前世では私の最推しであり、そんな相手と私は二回も愛を育くんだ。スペシャルエンドで彼に「君の手で殺して」と懇願されたあの時は、感極まり素で大泣きしてしまったほど。とはいえ、ヒロイン二人になりきっていたからこそ成し得たことで、マーガレットである今の私には到底無理な話。
あの瞳と数秒見つめ合っただけで、私の体は発火してしまいそうになる。何というか、もう生きている次元が違い過ぎる。
「えっと。僕は嫌われているのだろうか」
「も、申し訳ありません。少々考えごとを」
ついスペシャルエンドの恍惚としたエドガーを思い出し、受け答えを失念していた。慌ててカーテシーをしてみせると、彼ははちみつのかかったヨーグルトのような笑みを浮かべる。甘ったるいだけではない、程よい酸味でいくらでも食べられるあの感覚。食べ過ぎてお腹を下してから後悔しても、もう時すでに遅し。
「お見知り置きくださり光栄にございます、リオンヌ殿下」
「気兼ねなくエドガーと呼んでほしい」
「それはかたじけない」
動揺したせいで、訳の分からない受け答えをしてしまった。これは「死ニ愛」の前にハマっていた戦国タイムトリップ系乙女ゲームの影響で、確かあれも高確率で悲恋だった気がする。
「アンドリッサから聞いた通り、おもしろいご令嬢だ」
「き、恐縮でございます」
ヒロインや悪役令嬢の仮面を被っていない私には、エドガーは刺激が強過ぎる。うっかり「一緒にあの世へ」などと口走れば、その時点でマーガレットの首は胴体と永遠の別れをしなければならなくなるだろう。
「ライオネル、こちらへ」
「僕ですか?」
きょとんとする弟をぐぐっと前へ押し出し、王子の発する神々しいオーラの盾となってもらった。
「お姉様が、僕を頼ってる……!」
背中越しでも、幸せそうな雰囲気が伝わってくるのが可愛くて堪らない。
「僕はライオネル・フォーサスと申します。王子殿下にご挨拶出来たことを光栄に思います」
「ありがとう。そんなに畏まる必要はないから」
「婚約者様との貴重なお時間を邪魔してはいけませんので、僕達はこれで」
しっかりと私を背中に庇ったまま、きりりとした態度でエドガーに向き直る。姉の様子を瞬時に察知してさり気なくこの場から逃がしてくれようとする弟は、甲冑を身に纏った近衛騎士よりもずっと頼もしく感じた。
「ちょっと待ちなさい。マギーは置いていって」
「……はい?よく聞こえませんでした」
「二度も言わせないで!」
それに難色を示したのはアンドリッサで、どうやら彼女はどうしても私にこの場にいてほしいらしい。ちらりと視線をやると、殺し屋のごとき眼光の奥に「助けなさい」というSOSが垣間見えた気がした。




