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竜騎士姫アレサ ~最後の竜騎士の英雄譚外伝~  作者: よしふみ


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第四話    『竜の舞う王国は共喰いの炎に罰されて』    その28


「……いい人間ではなかっただろうが、いい戦士であった。竜騎士だったぞ、リングスタッド男爵よ!!」


 死んだ男を引きずり倒し、アレサはナイフを抜くと、敵の首を断ち切る。赤い血の滴るそれを、戦場へと突き上げた。


 示すために。


「リングスタッド男爵に仕える兵士たちよ!!諸君らの、主君は私の手により討ち取られた!!!諸君らは、これ以上、戦う理由を持たない!!剣を引き、投降しろッッッ!!!」


 見せつけるために高々と掲げられた領主の首……。


 男爵家の兵士たちの士気は、大きく崩れる。


 だが、それでも動こうとする者も少なからずいた。


「ま、まだだ!!リースさまがおられる!!リースさまの子が、次の南ガルーナ一体の支配者となられるのだ!!!」


「かたきを、討つ!!アンジュー卿も……ストラウス家の戦士どももだ!!!」


 メリッサ・ロウと、ジーン・ストラウスに敵意が浴びせられる。興奮した敵の一部が、武器を抜き放ちにじり寄るが、黒髪のメイドは冷たい言葉で出迎えた。


「愚かな。犬死にしたくば、するがいい!!」


「なにを、小癪な!!」


「たかが、ストラウス家のメイド風情がああああ―――――ぐふう!?」


 感情のままに暴走することが、戦場で優位を獲得することは多々あった。残酷な者、激怒に身を委ねる者、それらの攻撃性は強い。しかし、本来、人が戦場で組み上げる攻撃性とは、感情に呑まれたものではない。


 静かに、的確に。


 有効な攻めを連ねることこそが、最良の攻撃なのだ。


 知的であり、感情的なものでは全くない。


 矢と投げ槍が、男爵家の兵士らに降り注いでいた。村からの援軍が間に合ったのだ。突出していた兵士らが崩れ落ちる……。


「ジーン・ストラウス殿!!ご無事か!?」


「……ああ。無事だよ。君らも、最高のタイミングで来てくれた」


 もう立っておくことさえ出来そうにない。戦いには慣れている―――はずだが、ブランクも大きかった。年齢から来る衰えは、体力だけではなく、精神力にも及んでいる。ハッタリを演じることさえ、もうジーンには難しくなっていたところだ。


 メリッサは、それを理解している。


 だからこそ、話術に頼るのだ。


「こちらの戦力は、『充実している』!!……英雄ジーン・ストラウスも、援軍もいる。私とて、ストラウス家の従僕の一人として、戦いとなれば刺し違える覚悟はある!!すぐに、アレサさまもここに駆け付けよう!!戦えば、全滅必至。人道的な見地から、再度、勧告します。武器を捨てて、投降するように」


 冷たい顔を演じる。


 内心の緊張など、殺してしまって。


 ……男爵家の兵士らは、熟練者ばかりである。全員が、感情的であるとは限らないのだ。現に、この場にいた全員が状況もわきまえずに突出したわけではない。アレサの言葉に、動きを止めた者も多い。


「一致した動きをしなければ、ただ一方的に殺されるだけです。考えてください。男爵は死んだ。男爵の娘が生きているというのならば、彼女に仕えるべきでしょう。身重の彼女を抱えたまま、戦いますか?それを選べば、この者たちも報復の意志に燃える。彼女を、殺すかもしれない。考えなさい。男爵家の後継者たちを危険に晒す?……それが、本当にあなた方の果たすべき役目でしょうか?……仕える者としての、職業倫理を己の心に問いなさい」


「……くっ」


「男爵……」


「……リースさまを、守るべきだ……」


 敗北を悟る。男爵の野心は、彼の死と共に終わったのだと。この場にいる兵士たちはメリッサの言葉に首を垂れた。これ以上の戦いは、現実的ではない。得るものが、少ないと……だが、そんな道理が通じるのは、常識的な者たちでしかない。


『クズどもがああああああああああああああああああああああッッッ!!!そんな有り様だから、年寄り一匹、仕留め損ねちまうんだよおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』


 ザードの爪に頭部を深くまで斬られた赤竜ズーが、闘争本能を爆発させた。


 頭から大量の血を噴き出しながらも、稲妻のような加速で地を走り、蹴り、飛んだ。


『……はやい……だが、のがさん!!』


「ザード!!」


 アレサがザードの背に飛びつく。ザードは走り、兄竜を追いかける。ズーの平衡感覚は狂っていた。傷は、脳にまで達していたのである。


『世界が、揺れやがるっ。空が、まるでえ……っ。あの嵐の日のようだ……っ。くくく、主よおおっ。こんな風のなかでも、オレたちは……あの戦場でえ、誰よりも、武勲をあげたよなああああああああああああああッッッ!!!』


 過去が、見えていた。


 輝かしく、血の香りに飾られた日々が……。


 気に入っていた。


 だからこそ、背に乗ることを許していたのだ。


『負けたくは、あるまい!!!そういう、男だ!!!道理だとか……正しさだとか……そんなものじゃ、ねえんだよおおおおおッッッ!!!戦士の誇りってものは、竜騎士と、竜は、もっと傲慢で、熱いんだああああああああああああああああッッッ!!!』


 赤竜ズーが。


 全身の魔力を火球に変える。


 最後の火球を放つが……狙っていた場所からは、それた。アンジュー卿の屋敷の一階、客間に着弾していた。野蛮さはあり、傲慢ではある。しかし、愚かではない。見取り図を知っていたのに……有事の際にアンジューが隠れそうな場所を、調べていたのに。


 だからこそ、外れてしまった。


 壊れて狂った感覚では、正しく狙うほどに、外れてしまうのだ。


『ちくしょうううううううううううううッッッ!!!ちくしょうううううううううううううッッッ!!!』


「……ザード、ヤツの尾だ。跳べ!!!」


『……おう!!!』


 空で悔しがる兄竜の太い尾に、再びザードが噛みついた。そのまま、地上へと目掛け、赤い竜は投げつけられる。


 翼が折れて、死にかけの視線のなかに―――リースと、女がいた。アンジューの妻だ。悔しさが、主を殺され、己も弟竜に敗北してしまったことの悔しさが、呪わしい言葉を血と共に吐き散らかせた。


『リースうううううう!!ごろぜええ……ぞ、ぞいづを……ごろぜえ……っ。おれだぢの、だめに……だのむう。あんじゅーがら……ぞのおんなを、うばっぢまええええええええええッッッ!!!』




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