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竜騎士姫アレサ ~最後の竜騎士の英雄譚外伝~  作者: よしふみ


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第一話    『三度目の結婚式に赤い祝福を』    その3


 クインシーの謀略による政治的な力の結びつき、愛ではなく少年王エルヴェ・ゾードのためにストラウスの一族を結束させるためだけの結婚。


 とはいうものの。


「はあ、お姉さま、本当にお美しい花嫁姿です!!」


「嬉しい言葉だな」


 メイドの頭を撫でてやりながら、竜騎士姫はジーンの屋敷の一角で白いドレスに身を包んだ。化粧もされている。する必要もないと考えていたが、メリッサ・ロウに半ば人形遊びの扱いで口紅まで塗られた。


「男に媚びる化粧か」


「いいえ。お化粧は、女の満足のためでもあるのです。美しいって、綺麗って、強いです」


「私を満足させてくれる言葉遣いを、メリッサはよく理解している」


 この地上で最も信頼できる者は、メリッサだった。友情と愛情と忠誠を、感じている。これほどの絆に結ばれた者とは、どんなに長く生きたとしても二度と得られることはない。アレサは人生の長さを把握し、正しい認識をしていた。


「では、お姉さま。ジーンのところに向かいましょう。あいつはこのお屋敷の庭にある小教会を選びました。来賓を、寒空の下で宴会させる気らしいですが……」


「あまり期待していないのだろうよ、この結婚に」


「クインシーさまの罠ですからね」


「露骨に言う。そういう素直さは、私の守りがないときには口にするなよ」


「心得ておりますとも。貴族の家に仕えたのです。奴隷としてもメイドとしても。詳しいですよ、世の中の力学には」


 知性の輝きを見つけて、元・夫の屋敷から盗み出したことは何よりの正解だった。生来の知恵はアレサを誰よりも助け、忠誠心が信頼できる武器となる。武術も魔術も、それなり以上に仕込めたことで、護衛としても最高。アレサの影となるべき才がそろっていた。人生で最良のプレゼントの一つである。


「さあ、フィーエンのように美しい白い姿で、三番目の夫の元へと向かうとしよう」


「引きつった笑顔を見れそうですね」


「勇敢ではあるが、半ば隠遁している男……自分の年の半分の女を娶るのは、重荷だろう」


 ナイフを、花嫁衣裳の下に隠している。政敵も招いた。見せびらかすわけではなく、踏み絵のためだ。この婚姻に逆らう者を炙り出せれば、決闘を挑む名分にもなる。政敵を殺すこと、それが内乱の圧力を消し去る最短であり最善の選択であった。


「多くの者が、素直になってくれればいいな。酒に酔いしれ、自制を失い、口を滑らせてくればいい。寒空の式も悪くない。愚痴をこぼせばいい。片っ端から、私のナイフが竜の牙がするように、貴族どもの喉を裂いて回れるのに」


「……素敵な結婚式に、なりそうな予感しかしません」


「まったくだよ。期待に胸が躍る」


 メイドの手が分厚い扉を押し開き、冬の始まりの空の下へ花嫁を誘う。しきたりに従い、花婿へと会うよりも先に、貴族の来賓たちへ挨拶をするのだ。花婿の方がすることも多いが、身分次第である。この結婚式の主催者は、あくまでもより身分の高いアレサの方だった。


 わずかな雪が舞い散る昼に、ジーン・ストラウスの屋敷の庭へと躍り出る。美しい花嫁に、多くの出席者が見惚れてしまった。竜騎士姫の二度の結婚については、この場にいる誰しもが知っているのに。そのときのアレサは、悪名を消し去り、男も女の心も魅力の指で握り締めてしまうほどには美しかった。


 羨望の眼差しと、感嘆の息、それらが飛び交うガルーナの空の下を歩き、出席者たちの前に花嫁は君臨する。媚びることはしない。従うべきは、自分以外であるという認識はいつでも揺るぎはしない。ガルーナ王以外に下げる頭を、生まれてこの方、アレサは持っていなかった。


「よく集まってくれたな、皆の衆。私の三度目の結婚式へようこそ。気の利かない新しい夫のセンスのせいで、寒空の下ではあるが、料理の肉と酒の味は保証できる。楽しんでくれたまえ、内心、私を殺したがっている家の者もいるだろうが、まあ、ゆっくりと酒でも口にしろ。さあ、ワインを、掲げるがいい!」


 集まった者たちは竜騎士姫の女王のような態度の大きさに圧倒されつつも、呑まれることを望んだ。敵になることは、恐ろしかった。少なくとも、あの悪名高き美しい花嫁の視線を浴びる前で、それほどの無謀を晒すほど内乱に揺れる貴族社会のメンバーたちは素直ではなかった。


 血のように赤いワインの入ったグラスを、アレサの動きに倣い皆が掲げる。


「私とジーン・ストラウスの結婚に、幸あれ。祖国ガルーナのために、この婚姻が平和をもたらす力となるように……乾杯」


「乾杯!!」


「アレサ姫、万歳!!」


「『歌食い殺し』のジーン・ストラウスに栄光あれ!!」


 短い言葉。


 長い言葉。


 真実と嘘が入り混じった祝いの言葉が、この場に集まった者たちの口から放たれた。良い雰囲気ではある。誰しもが、本音はともかくこの儀礼を歓喜の姿で過ごそうとしていた。


 メリッサは、それを好ましいことだと考える。


 良くないことは真昼間から起きるべきではないのだ。


 せめて、晴れた空のもとで、美しい花嫁衣裳に光り輝く愛するお姉さまの姿を、堪能しておこう。にんまりと緩むメイドの口もとであったが―――不運なジーン・ストラウスの言葉にあるように、ガルーナの人々の運命は、大きく歪んでしまっていた。


 アレサの期待が叶ってしまう。願っていた以上の深刻さではあったが。


 敵は、祝杯の仮面を投げ捨てて、悪意と野心をむき出しにすることを選ぶ。


 庭の隅に隠れていた兵士ども。ジーンが雇っていた楽団を殺し、その皮をかぶってこの式に接近していた暗殺者ども。アレサとジーン……いや、少年王エルヴェ・ゾードとストラウス家の結託を崩すために集まっていた政敵どもの手下が動いた。


 毒矢と火矢を弓につがえ、貴族たちの腕が祝杯を降ろすよりも先に、殺意がこの野外の祝宴の空へと放たれる。




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