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竜騎士姫アレサ ~最後の竜騎士の英雄譚外伝~  作者: よしふみ


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第四話    『竜の舞う王国は共喰いの炎に罰されて』    その8


『ころすか……ッ!!』


「ダメ、ザード!!」


『……おれに、さしずするか、ちいさいやつ』


 金色の隻眼に、にらみつけられる。愛と忠誠が生み出した勇気の魔法が消し飛びそうになる。だが、耐えた。全ては、アレサ・ストラウスのために、成さねばならない任務である。


「指図じゃ、ない。でも、あの竜は、赤竜ズー。リングスタッド男爵の竜。とても、強い竜よ」


『つよいてきは、よろこばしいものだ』


「傷が開くわ。戦えば、あなたは未来における強さを、それだけ失うことになる」


『……っ』


 誇り高い獣である。しかし、それと同時に知性も強い。メリッサ・ロウもフィーエンとの交流を得て、竜については詳しくなっている。並みの竜騎士の知識は、すでに超えているのだ。


 竜をどう扱うべきなのか、彼女は知っている。


 黙り込むザードを前に、胸をなでおろす。告げるべきだ。自覚させるべきだ、現状を。


「赤竜ズーと、リングスタッド男爵が敵だとは限りません。敵である可能性が、あるだけ。味方かもしれない。もし、そうであれば、無意味に敵対することは、皆を不幸にします」


『おれには、そんなことはかんけいない』


「いいえ。あります。だって、あなたはムダな傷を負い、強さをそれだけ失うのだから。ズーと無益な戦いをして、傷を深めてしまったら……そのあとに控える、バロウとの戦いでも大きな傷を受けるかもしれないわ。あなたは、それだけ、大切な力を奪われていく」


 逃げない。


 にらまれても、逃げない。


 竜は臆病を嫌う、そして、臆病者の言葉を信じない。


 竜に告げるときは、毅然とした態度が要る。背筋を伸ばす。国王陛下に謁見するような態度で、メイドが取るべき最良の姿勢を選んだ。そうすることで、メリッサ・ロウは自分が最も誇り高い振る舞いを選べると知っている。


 アレサ・ストラウスのメイドであることが、その役割に相応しい少女であること、メリッサにとって最高の幸せであり、誇りなのだから。


 凶竜ザードは『力』を感じ取る。


 小さな背丈が、わずかに伸びただけ。竜のサイズからすれば、気に留める方が困難な違いでしかない。それなのに……この力を求める賢い竜は、人と混じることで、意志の力というものを把握し始めていた。


 メリッサは、小さな勝利を得る。


 竜の尊敬、とまでは行かないものの、それに近しい感情を向けられることに成功したのだから。


『……ふん』


「そうです。それで、いい。今は大人しくしておくんです。一秒でも、一分でも、長く。翼を休ませて。あなたと、アレサお姉さまのために」


 気高い仔竜は、牙をガリガリと鳴らしながらも、瞳を閉じる。戦いが来るまで、眠っておくことを選んだ。それは、挑発でもある。赤竜ズーには、侮蔑としても映るはずだ。強い竜を目の前にして、仔竜が警戒の姿勢を取りもしないのだから。


 ……本能的に、分かってるんだ。ザードは、ズーを、怒らせようとしている。敵にしたいんだ。『グレート・ドラゴン』だから、『自分より弱い全ての竜を淘汰する運命』を、実行したがっている。


 怖い、挑発であった。


 竜もそうだが、ガルーナの貴族は、とくに竜騎士たちは気が荒く、気高い。ザードの態度に、赤竜ズーだけでなく、リングスタッド男爵まで怒り出すかもしれない。


「……信じるしか、ないですよね。みんな、少しくらいは、大人だってことを……っ」


 見境なく攻撃し合えば、どちらかが死ぬ。


 敵であれ、味方であれ、ザードがアンジュー家にいることを、赤竜ズーとリングスタッド男爵は初めて知ったはずだ。無謀は、控えてくれればありがたい。無謀は……。


「……この、大人気ない男ばかりの国に、そういうの期待するのって……ちょっと、分が悪い気がしますよ、お姉さま……早く、お戻りください。こちらに、お姉さまが、いるかいないかで……リングスタッド男爵は、態度を選ぶでしょうから」


 竜騎士姫とザードのコンビに、挑むことはないだろう。


 いくら気高く狂暴で、野心家であったとしても。


 敵うはずのない相手に挑むことを、勇敢とは呼ばない。


「……バレないように、交渉して欲しいところですね。アンジュー卿には」


 ……屋敷を見る。


 玄関から、エルフの傭兵に連れられて、この土地の主が出て来た。空をにらむのが見える。敵意というよりも、困惑からだ。考えている。考えるほどには、親しい間柄なのだろうか……。


「衛兵さん!」


「な、何でしょうか、メリッサ殿……っ」


 『ある程度離れた近く』でこちらを見守ってくれた男の引きつった顔に、少女は問う。


「リングスタッド男爵家と、アンジュー卿の関係は?良好なんですか?」


「く、詳しいことまでは、オレだって知りませんよ。でも、その……」


「知っていること、あったら教えて。隠しても、状況が良くなったりはしないからね」


「……あ、ああ。リングスタッド男爵の娘と、うちの坊ちゃまは婚約していたんだ」


「……なる、ほど。それは……つまり……」


 仲が良い、という判断を安直に出来るほど。


 この内乱に燃えるガルーナが単純ではないことを、メリッサは知っていた。愛は信じられるが、政略結婚は、ただの政治。政治は、全くもって信じるに値しないものである。ただの欲望の方便に過ぎないのだから。




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