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竜騎士姫アレサ ~最後の竜騎士の英雄譚外伝~  作者: よしふみ


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第四話    『竜の舞う王国は共喰いの炎に罰されて』    その1

第四話    『竜の舞う王国は共喰いの炎に罰されて』




 ドワーフの英雄シェフを雇うための旅は、アレサとジーンの二人だけで行くことにした。ザードは当然ながら休ませねばならない。メリッサはザードの治療係として残ることになった。


「非常に不満ですけどね。夫だからといって、お姉さまにいやらしいことをしようとするなんて、ダメですよ、ジーンさん?」


「あ、ああ。その、自重するし、そもそも分かっている。状況ってものをね」


 ガルーナの危機であり、少年王エルヴェの危機だ。そんなときに、若妻に欲情しているはずでもない。そもそも、愛するのはティファで…………中年男は、認めることを選ぶ。魅力的に感じていた。アレサのことを。


 だが、ちゃんと理解もしているのだ。


「任務を果たすのみさ。馬を六頭用意してもらったからね。オレとアレサで三頭ずつ乗れば、かなり早くシェフのいる『竜のあぎと』に行って、戻って来れる」


「豪華だな。三頭乗り換えながら駆け抜けるか」


「竜ほどの速さはないがね。それでも、常識離れして早馬の完成だ。豪華すぎて、普通はやれないが……そこは、パトロンに感謝だよ」


「英雄殿と竜騎士姫のためならば、どんな出費もいとわん。ガルーナと、エルヴェ陛下のために。結束しよう。あの山賊もどきどもとだってね」


 ジーンは苦笑する。悪友の所業を嗅ぎ取ったのだ。


「あいつには、言っておくよ。部下の躾けをしっかりとして、とくにアンタの家の馬車を狙わずに、領地でも悪事を働くなとね」


「聞きしに勝る、悪行っぷりか。会うのが、楽しみになるよ」


「お姉さまってば……英雄とはいえ、多少の悪い噂のある人物です。気を許さないように。男は、全て、女の敵!心の真ん中あたりに、ちゃんと刻み付けておきましょう!」


「愛情がゆえに、思想が歪んでいるよね、メリッサくんてば……」


 独占的だ。まあ、それがゆえの強い忠誠でもある。一長一短あるのが、心の力かもしれない。


「叔父上、行くぞ。先行してくれ」


「あ、ああ。地上の旅は、オレの方が詳しいからね。エスコートするよ。では、アンジュー卿、メリッサくん。こっちは、頼む」


「任せたまえ。私も、夜には出発しよう。腕っぷしはないが、多少の交渉術を使いながら王都を目指す。敵は、減らさねばならんからね」


「ザードの傷、必ずや万全にいたします。お姉さま、気を付けて」


「ああ。そちらもな。奥方の行動も、だが……政変のときだ。どんな悪意や欲望が、生えてくるか分かったものではない」


「内外の警備は、万全を目指そう。私の領地も屋敷も、家族も……守らなければならん」


「そうしてくれ。これ以上、無益な血を流さないためにも、備えは要る」


 こうして、衛兵たちやエルフの狩人たちにも見送られながら六頭の早馬とストラウス家の最も新しい夫婦は旅立った。


 ザードは、眠りながらも聞いていたが、起きるまでもないと、自分に手を振るアレサに無反応を貫くのであった。


「ふむ。塩対応だ。さすがは、ザード。私の期待に、しっかりと応える」


「すぐになびくような竜は、お嫌いってことかい……」


「まあな。気高い者が、そうやすやすと心を許してなるものか。ザードは、あれで良いのだ。奥方の言った通り、まだまだ子供……私が、もっと、ついていてやるべきだが……」


「オレだけが行くのでも……いや、無理かな、そいつは」


「残念ながら、無理な選択だ。ストラウス家の家長は、叔父上ではない。私の方が、血では上なのだ。当主が直々に命令を与えねば、シェフ殿も首を縦に振らないだろう。ストラウス家の旗のもとに、バロウ家の領地を襲撃するなんていう、大それたことはな」


「積極的に、内乱を広げることにもなりかねない行いだからな。大義名分はいる。バロウがストラウス家の仕掛けて来た戦であり、シェフたちは、あくまでもストラウス家の長、アレサ・ストラウスの復讐の代理人であると……我ながら、血なまぐさい作戦だよ」


「だが、正しい」


「困ったことにね。そうだと信じているよ。もっと、賢ければ……もっと、政治的な手腕があれば、こういうのとは別の方法もあったかもしれないが……」


「残念ながら、しょせん、叔父上にもストラウス家の狂暴な血が流れているのだよ」


「そうかね?」


「そうでなければ、『ラウドメア』を倒すようなことにはなるまい。敵への怒りを、抑えられん。気高い血が燃えれば、どんな強大な敵にさえも、噛みつく。ストラウス的な特質だと言わずして、何なのだろうか」


「……自分では、もっと、大人しくて控え目な知的な紳士だと考えているんだが」


「ハハハハハハハ!!」


 少なくとも、若妻からはそんな目で見られているわけではなかったという事実を、小雪が舞う空へ放たれた笑い声で気づかされた。


「叔父上は、ユーモアに長けている。多くの本を、読んだ証なのだろう。良いことだ」


「ああ。女性を笑わせるなんて、男にとっては名誉だもんね。敵じゃないよ、メリッサくんが言うほどには、男って、もっと愛らしい生き物なんだぜ」


「叔父上は、凶暴なストラウスだがな」


 アレサに言われるのは心外ではあるが、42年も男として生きていると、そんな言葉を乙女に使うべきでないことぐらいは心得るようになるものであった。




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