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竜騎士姫アレサ ~最後の竜騎士の英雄譚外伝~  作者: よしふみ


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第三話    『少年王の受難』    その1

第三話    『少年王の受難』




 敵の消えた空から、全身の傷から血を流すザードが地上へと戻る。ザードは、すぐさま身を横たえた。傷を癒すための時間を取るために。腹も尾も長い首も、湿り気を帯びた朝の地面にあずけ、目を閉じる。


 アレサはすぐにザードの背から降りた。少しでもザードを休ませたい。青い瞳が竜の傷を観察する。筋力の強さが災いし、あちこちで傷口が開いていた。深刻なのは、翼を羽ばたかせるための背中の傷だ。


「治療すべきだな、これは……」


『……いらん』


「強くならなくていいのか?」


 無言を選び、寝息が始まった。承諾したとアレサは受け取ることにした。


「お姉さま!!」


 メリッサ・ロウが駆けつける。心配そうな顔で。ザードのことを心配してはいるわけではなく、アリサのことだ。彼女に抱き着いて、猫耳の生えたケットシー族の頭を胸に押し付けて来る。


「ムチャばかり……しちゃ、ダメです。竜の背から、竜の背に飛び移るなんて……」


「悪かったよ。つい、気が昂ってしまった。良い敵に恵まれたものだからな。良い戦いだった」


 悪癖だ。メイドは思う。アレサ・ストラウスを崇拝している彼女ではあるが、戦いを好み過ぎるストラウス家の血と、その性質が特別に濃いアレサの闘争への欲求は、危険なところがある。


「ご自愛、ください」


 きっと、その願いは叶わないことも知っていた。だが、百も承知な上で、口にするのもメイドであり腹心である者の義務だとも信じる。


「うん。私も、ザードを育てあげるまでは死ねんからな」


「ご自分のためだけに、危険を厭うべきなのですが……はあ、仕方のないお姉さまです。今は、傷のお当てをいたしますので、すぐに服をお脱ぎに」


「私よりも、ザードを優先だ」


「お姉さま!!」


「契約はなった。竜との契約。生命力が、互いを支える。ザードの傷を治す方が、私の治癒も早くなるのさ。効率的な判断だよ」


「それは、そうですが……」


 感情というものが、論理に勝ることが正しいとは限らない。愛情というものは、平等からは遠い側面もあった。メリッサにとっては、最強の竜になる可能性よりも、お姉さまの命の方が優先すべきことである―――しかし、感情のまま逆らうことはない。忠誠も、メリッサの愛が持つ側面の一つなのだから。


「分かりました。では、大きな傷は、私にお任せください。針で縫いますので」


『…………はりで、ぬう、だと……?』


「ひっ!?」


「にらむな。寝ていろ。矢で射られるほどには痛くもない」


『いたみに、おびえているわけではない。そいつが、おれになにかをつきたてることは、ゆるさん!おれにきずをつけるのなら、ころしてやる。りかい、しろ…………zzz』


「私の裁縫術よりも、メリッサの方が何倍も器用なのになあ。私に、縫って欲しいようだ。可愛いところがあるじゃないか」


 ニヤニヤと笑うものの、竜には無視された。ザードは寝息を立て始めている。演技ではない。竜は睡眠と知覚を両立することもやれるだけだ。眠っている最中でも、声を理解する。文句を言いたいことがあれば、即座に眠りから起きて、解決すればすぐに眠れる。


 ザードに脅迫されて、石像のように固まるメイドの手から、竜針と呼ばれる太く長い針をアレサは回収した。鼻歌まじりに、縫合は開始される。


 ザックリと開いた傷口は、そのまま肉と肉を引き寄せ合うように縫い留めた。エルフの商人から仕入れた、縫合用の特殊なかいこ糸を使う。抜糸しなくても、しばらくすれば肉に吸い込まれるように消えるというところが、利便性が高く、アレサが気に入っている点だ。多くの傷口は、それで縫い留められのだが……。


「ザード、ここのうろこは深い傷を縫うのに邪魔だ。ナイフでいくつか削ぎ落とすぞ」


『zzz』


「そうか、強くなるためには、ガマンだぞ。良い子だ、私のザードよ。では、いくぞ」


 逆手に握ったナイフが、ガリガリと音を立てながら鉄のように硬いうろこを剥ぎ取っていく。取れたうろこの一つを指先で取り上げると、朝陽に当てるようにして見定める。軽くて、硬い。そして、光を吸い取るような深い黒だ。これならば、夜にもなじむ。昼の空を飛んでも、陽光を反射して敵に悟られることも少いだろう。


「いいうろこだぞ。お前に、芸術的でないところは、どこにもないんだな。戦いのために、軽く、強く、光を御する。素晴らしいうろこだ。食べてやりたいほどにな」


『…………くうな…………きもち、わるい…………zzz』


「そうか。愛しい者の肉体の一部を、つい口に含む。愛らしい行いだろうにな……メリッサもよくやるが……っと、メリッサ」


「は、はい!!」


「ザードの傷口に、薬を塗り込んでやれ。それは、ザードも嫌わないだろう」


 眠れる竜は無言のままだった。許してくれているらしい。メイドの安堵の息を吐きながら、約瓶のふたを外し、その細い指先に緑色の薬液を取る。複数の薬草をブレンドしたもので、刀傷や矢傷などの深い傷にも重宝される高級傷薬だ。


「竜に、使うとなると。高くつきますが」


「もったいなくはないさ」


「……はい。そうですね。ザードは、お姉さまの新しい竜。フィーエンを、超えて、お姉さまの理想を実現するための翼……投資を惜しむなんてことは、愚かです」


 全ては。


 やはり愛のため。メリッサは自覚する。竜を嫌いなわけではないが、自分の行動の理由は、アレサのためであるべきだ。そのときが、最もアレサのための力となれるのだから。




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