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第五話    『決戦の王都』    その11


 誰もが悲劇と政治の威力に屈するわけでもなかった。わずかだが、忠臣と呼ぶべき者がクインシーにもいる。


「……どうして、私を……助けてくれようとするんだ?……墓から死体まで、盗んで来て……」


 あらゆる牢には秘密が埋められているものだ。王城の牢の床の一部も、順番の通りに石を抜いていけば開かれる。隠匿すべき死者を、運び出すための陰謀の闇が棲む地下の小路。そこに心身共に衰弱したエルヴェはいる。ドワーフの少年に引きずられるようにして歩いていた。


「ようやく、だんまりの時間も終わってくれたみたいだなあ。おいらは、嬉しいよ。王さま」


「……誰なんだ?」


「クインシーさまの……というか、ストラウス家に御恩のあるドワーフ女の息子さ」


「クインシーの手下か……」


「手下ってほど、立派なものじゃないけれどね。墓堀人さ。嫌われることもある仕事なんだけど……ガルーナの、立派なヤツらは竜に火葬してもらえるけれど。親父が死んだとき、前の王さまと、クインシーさまがちゃんと手当をくれたんだ。おかげで、ガキだったおいらも一人前になれるほどには……」


「子供だろう。お前は」


「そっちもな。でも、王さまなんてことを、させられている」


「させられている、わけではない。私は、自らの意志で、選んで王をしている」


「それが、一人前ってことの証ならさ。おいらも、一人前だ。自分の意志で、あんまり儲からねえし、おっかしな秘密を抱えることもある墓堀人になったんだよ。親父の跡を継いだ。先代の跡を。だとすれば、おいらも一人前の男じゃないか。王さまと同じさ」


 墓堀人と同じ。


 その言葉を、多くの王が聞けば激怒したかもしれない。


 エルヴェも少しだけ怒りを覚えそうにもなったが……聡明な知性を持った少年である。自ら選ぶことの重さを、ちゃんと汲み取って感じられるのだ。この墓堀人の少年は、自らの選んだ道に誇りを持って生きている。


 誇り高い、同じ年齢のような子供に……エルヴェは軽蔑よりも共感を抱けた。王位など背負った苦労の多い少年と、子供ながらに墓堀人をしている少年は、どこか通じ合うところも見つけ合えたのだ。


「クインシーさまがな。おいらが墓堀人をしだしたとき、教えてくれていたっていうか。命令を遺してくれていたんだよ。祝いの金と一緒に。下々の者たちを、貧乏な流れの亜人種のためにも、墓穴をちゃんとしっかり、規定通りの深さで堀ったおいらを、一人前だって認めてくれてさ」


「クインシーは……そう、だな。貴族には、嫌われていたが……」


「貧乏な流れの亜人種は、好いているヤツも多いんだぜ。おいらたちが、暴れないように。ちゃんと、ストラウスと……ついでに、ガルーナの王さまに尽くすように、世話を焼いてくれた一番の御方さ。つまんない貧乏のガキにも、意味を与えてくださったから……だから、おいらは、ここにいる。今、あんたを助けるために」


「……地下の通路を、お前に、教えたんだな」


「墓堀人の一人にだけ、教えていたんだってよ。親父が、その役目だったかは、聞かされちゃいなけど。どっかの誰かがが、こっそりと受け継いで来た『秘密の役目』さ。王さまが、もしも囚われの身になったときは……身代わりの死体をここから運び込んで、助けてやれと」


「……クインシーは、この状況さえも、予測していたのだろうか」


「かもな。聡明な方だったことは、ガルーナに住む誰しもが知り尽くしているだろう。好きか、嫌いとかはさ、それぞれあるんだろうけれど。おいらが知っている限り、ガルーナで一番の知恵者って話題においては、クインシーさまが候補にならなかった日はない!」


「……自らの死も。私が、囚われになることも……知っていたのか……クインシー……私を、ちゃんと……心配して、くれていたんだな」


「そういうことらしいぜ」


「……戻りたい」


「昔に?」


「違うよ。彼女を……クインシーを……冷たい牢に、置いて来ているじゃないか……っ」


「いいんだ」


「いいはずが、ないだろう!」


「あんたが生き残るために、行動すべきときだ。死者を悼むことを、いつも墓穴ばかり掘っているおいらは、大切なことだって知っちゃいるけれどね。でも、死者が、生きているヤツの命に勝ることなんて、一度だってあっちゃいけない」


「……だが……」


「遺志でもある」


「……っ」


「遺言だよ。王さま、あんたを、助けろって。おいらは役目を与えられていたから。こうして、やって来たんだ。あんたの身代わりにする死体に、細工もして。可哀そうなことをしたが……王さまが、生き残っていれば、後であの二人にも、望めば遺族にも、手厚い恵みを与えてやれる」


「私が……生き残ったところで、強さはないよ」


「あんた自身は、確かに弱っちいだろう」


「……っ」


「でも、大切なことは、あんたは一人なんかじゃないってところだろう。おいらも、一応はいるけれど。もっと、『とんでもない仲間』がいるじゃないか」


「…………竜騎士姫」


「そう!血はつながっていないけど、あのクインシーさまの娘じゃある。戦場で多くの歌を、まだ19才なのに持っている怪物みたいな御方だ。空を飛びながら、国境の果てから戻って来る白い竜と……その背に乗った赤い髪のあの御方を見たことがある者は、分かる。血化粧をした竜太刀と、顔…………クインシーさまいわく。アレサ・ストラウスさまがいる限り、あんたはあきらめる必要はないんだってよ。必ず、来るから」


「……フィーエンは……」


「うん。でも、今は……もっと、『とんでもない竜』と共にいる。フィーエンさえも殺した、最強の竜……ザードと共に」




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