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僵れぬ神使の異類婚姻譚  作者: 大西 憩
7/51

04

 大和は大きくジャンプし、モモタリに殴りかかる。大きな竹ほうきが音を立てて振り下ろされる。


「あまり邪魔をしてくれるな」


 モモタリはため息交じりにそう言って大和を睨むと、モモタリの肩から鋭利ななにかが飛び出た。

 それは大和の手にあるほうきに勢いよく突き刺した。

 …大和は衝撃でその場に落ちるように転び、驚愕した表情でモモタリを見た。


「いつも世話を受けている恩がある、命までは取らない」


 稲と大和は呆然とモモタリの姿を見た。

 そこには先ほどまでの端正ですらっとした男の姿ではなかった。


 顔や体は美しい人間の姿ではあるものの、男の身体側面部から虫の節足が無数に生え、蠢いていた。そしてその鋭利な足先すべてが大和に向いている。


 先ほどまでの胸の高鳴りはどこへやら、稲は全身が寒くなり慌ててポケットの塩を取り出した。


「あ、悪霊!退散!」


 そう稲は叫び、塩をモモタリの顔に投げつけた。ポケットに入っているありったけの塩を。


 妖退治はスピード勝負なのである。

 少しでも判断が遅れたら()()()()のは自分だ。

 塩を浴びせれば、悪霊はたちまち浄化され消えるだろう。しかし稲は「この美貌が消えるのは惜しい…!」と、心の奥底の自分の声を聞いた気がした。悪霊であれば死と隣り合わせだというのに。


 モモタリは少し呆れたように稲を見て溜息を吐いた。

 ありったけの塩を浴びせたというのにモモタリは全然ピンピンしているようだった。稲はなぜだかホッとした。

 しかし、塩の効かない相手が初めてだった。大和は「い、稲を離せ…!」と先ほどよりも落ちた声量でモモタリへ抗議した。あれは絶対に腰が抜けてる。


「…イネ、その塩は俺が清めたんだけど」


 困ったように眉を八の字にし、すねたように口をとがらせモモタリは言った。

 「まあいっか、イネだから…許すよ」とモモタリは改めて微笑むと、自分の髪についた塩を肩から飛び出た節足で払った。虫のようなその足は何とも滑らかに動き、作りものではないことを物語っていた。…ちなみに稲は、虫は平気である。


 生唾を飲みモモタリを食い入るように見る稲の頭をモモタリは()()()で優しく撫でた。

 稲は「うわ!」と声を上げ、先ほどまで緊張で冷えていた身体がまた熱を帯びる。モモタリの顔があまりにも端正なので妖の類と分かっていてもときめいてしまう。もう身体から虫の節足が出ていようが関係なく胸が高鳴る。稲は自分の異常性癖を開かれた気分だった。


 真っ赤にして狼狽える稲をモモタリは見つめながら

「最近妖がイネを狙っているようだから、早めに受け入れるにすぎない」

 と、呟くように言った。稲に話しかけるでも大和に話しかけるでもなく自身に言い聞かすような声量だ。


「お、お前はいったい…」


 腰が抜けたのであろう大和がそう呟くように言うと、稲を見つめていたモモタリはまた大和を見た。先ほどまでのきつく睨むような視線ではなく、少し呆れたような、わがままを言う子どもを困ったように眺める視線だ。


「何度も言わすな。ここの主人だ」

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