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僵れぬ神使の異類婚姻譚  作者: 大西 憩
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今回はおまけ

稲の過去話です!

***


 近所の公園につくと金魚が舞っていた。

 

 池や鉢があるわけではない。金魚はただ悠然と空中を浮遊している。

 その金魚たちはぎょろりと目玉の飛び出たものやぼこりとおでこの突出したもの、いろいろな種類の金魚が大小連なって宙を泳いでいる。

 稲はその様子を眺め「綺麗」と呟いた。手に持っていたスコップを地面に置き、稲は両手を広げで金魚たちを追う。


 時間は黄昏れ時、空はだんだんと紫色に染まっていた。


「お前、親は?」


 稲は声のする方へ顔を向けた。

 そこにはかわいらしいロリータ服を纏った少女がブランコに座っていた。

 少女は大きな黒い傘をかぶるように携えており、顔は隠れていてどうにも見えない。


「…だれ?」

 稲が首を傾げると少女は大きなため息を吐いた。

「…こっちが聞いてんの。親は?」

「い…いない」

 稲は思ったよりも強めの口調で尋ねられ肩が跳ねた。慌てて返事をしたので正確にはいないわけではないのだがいないと端的に答えてしまった。

 稲の返事を聞いて面倒くさそうに深く長い溜息を少女は吐いた。

「こんな時間まで外にいたら危ないだろ」

 見た目に反して少年らしい話し方をした少女は立ち上がると、カツカツとヒールを鳴らして稲に近寄り目線を合わせるようにしゃがんだ。


 傘の隙間から覗いた陶器のように白い肌、薄い水色の瞳が稲を見る。

 稲はその瞳があまりにもきれいで吸い込まれてしまいそうだと思った。

「お前みたいな視える子は特に危ない」

 そう言って少女は稲の眉間を指先で押した。稲の軽くて小さな頭は後ろに押し倒される。

「さっきみたいに妖に自分から寄るな。善い奴も悪い奴もいるんだ」

「いでで」

「もっと痛い目見るよ、家に帰んな」

 そう言って少女はパッと手を離した。涙目になった稲は押されて赤くなった自分の眉間を小さな手でさすった。


「…おにいちゃんは帰らないの?」

 稲が顔を上げて尋ねると一瞬驚いたように”()()()ちゃ()()”と称された少女は目を開いた。

「…()はいいから」


「お名前は?」

 稲はそう尋ね、少女の膝に手を置いた。少女は沈黙している。

 しばらくするとしびれを切らしたのか稲は「おにいちゃんがこの金魚を飼っているの?」とかぶせて質問をした。キラキラとした瞳を向けてくる稲に少女は「…名前はもういいのかよ」と小さくつぶやいた。

「僕の遣いだよ」

「とってもきれいね」

「だろ」

 稲の言葉に気をよくしたのか少女は微笑み「お前見る目あるわ」と言った。


「さて、もう十分だろ。帰りな」

「うー…」

 不満そうに自身のワンピースを掴む稲を見て少女はため息を吐いた。

「また明日、黄昏れ時になったら会える。明日また来いよ」

 そう言って少女は地面に落ちたスコップを稲に手に持たせてそのまま稲の背中を押した。稲はなされるがまま公園から引きずり出されてしまった。

 稲はまだ遊び足りないと「いやいや」身体をよじったが少女の力の方がが強い。


 ずりずりと引きずられながら稲は少女を呼んだ。

「おにいちゃん!」

「僕もさみしいから、また明日来いよな」

 背中を押す感覚がなくなった。稲は振り返ると、ひらひらと金魚が宙を泳いでいる。

 あたりを見回しても先ほどの少女はいない。


「…また明日ね」

 稲はそう言って金魚の泳ぐ公園へ手を振った。

雨降り小僧と稲の話です

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