表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僵れぬ神使の異類婚姻譚  作者: 大西 憩
42/51

38

 大和の言葉を聞いてモモタリは「一人で?」と不審そうに形のいい眉をひそめる。眉間にしわが寄ってもかっこいい。


「そんなことよりも、夢じゃなかったならお前は何だ!」


 大和が元気よく(?)モモタリに指をさし尋ねる。

「お行儀の悪いー…」とナンギョクが大和の指を下げ「仕える主人に向かってなんと礼儀の無い!」とコウギョクも憤っている。

 双子に囲まれ大和は心なしか嬉しそうに頬を染めている。

 普段は少しガタイがいいのもあって子どもに避けられる傾向があるので近付いてきてもらってうれしいのかもしれない。

 …まあ二人は子どもではないのだが。


「その通り、俺はあそこで祀られている神だ」


 後光が差すようなにんまりとした笑顔でモモタリは言った。

 今日は服装が簡易な和服ということもあってなかなかに様になっている。

 朱色の瞳は角度によっては金箔のように薄く煌めいた。


「…神サマがどうして稲と一緒にいるんだ」


 大和の疑心は解けることなく、モモタリをじろりと訝し気にみた。

 まあ普通の反応だろう。私だって普段から妖と交流がなければ、何度も助けられていなければモモタリの言葉を信じられなかったろう。

「結婚の約束をしていてな」

 にこにことモモタリが言うと「は?!」と大和は怒ったように言った。

「何怒ってるんだ」

 モモタリが首を傾げると困ったようにもごついた大和は「う…!い、稲!」と、稲を呼んだ。


「稲は、こいつが好きなのか!?」


 大和の問いを聞いて稲は「はえ…!?」と顔がどんどん紅潮する。

 その様子を見て「愛いー…」とナンギョクは頬を自身の手で覆った。モモタリもうんうんと頷いている。


「…そんな、そんな、お、俺だって!」


 顔を赤くし固まる稲を見て大和は慌てたように稲の肩を掴んだ。

 稲が驚いたように大和を見ていると、


「ココニイタ」


 と、低い声が廊下にキンっと響いた。


 モモタリは稲の腕を引き、大和ともども自身の後ろへと投げ飛ばした。

 稲はバランスを崩しこけ「大和につぶされる!」と衝撃を待ち目を閉じたが、どうにも衝撃はやってこない。

 目を開けるとナンギョクが稲をお姫様抱っこ、コウギョクが大和をお姫様抱っこしていた。

 大和は「もうお嫁にいけない!」と顔を覆っている。


「やっとお出ましか」


 モモタリは、自身の袖口からすらっと細長い刀を取り出す。刀身の峰部分にいくつかの突起が付いており、遠くから見ると背骨のようにも見える変わった形の刀だ。

 ゆったりとした動きで刀を向けた先には、一人の少年が突っ立っている。少年は先ほどまで大和が立っていた階段の踊り場から出てきたようで、こちらをじっと見据えている。

 髪は老人のように真っ白で、瞳は真っ黒に沈殿している。

 以前、稲の席に座っていた少年だとは思うが、生気はないものの顔つきは以前よりも人に近い。


「…見た顔だね」


 そういってモモタリが微笑むと少年は「ドウシテ」と呟く。

「ドウシテドウシテドウシテドウシテ」

 少年は蚊の鳴くような小さい声で何度も何度も口の中で話す。稲は言いようのない恐怖を感じた。

 大和にも大きな黒い靄だけが見えているのか「なんだよこれ…」と少年の立っているあたりに視線を向けている。


 しばらくすると少年はぱったりと押し黙り、ゆらゆらとモモタリや稲たちに向かって歩き出した。

 モモタリは刀身を少年に向け「自我もないのか」と少年を哀れむような瞳で見つめた。


 少年が勢いよく飛び掛かってくる。

 モモタリは「ナン!コウ!結界を張れ!」と大きな声を上げ、双子は稲と大和を床に降ろすや否や両手を前方に掲げた。

 先ほどまで少年だったソレはまるで獣のような顔つきで空を噛んでいる。…そこに結界があるのだろう。

 人間とは思えないような声を上げ、少年だったものは「グゾ!クソガ!シネ!コロス!」と叫び続けている。


 モモタリに視線を向けると、モモタリはどういうわけか壁に押さえつけられている。

「モモタリさん!」

 そう稲が叫ぶ、モモタリに誰かが覆いかぶさるようにしている。稲からは背中しか見えないが、その背中は見覚えがあった。


「赤城さん、ダメですよ。夜の学校に許可もなく入ってきちゃうなんて」


 ゆっくりと振り向いた男は、にこにこと人当たりの良い笑顔で言う。

 稲は震える自身の手を自分で抱きしめるようにし「な、なんで、先生」と呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ