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僵れぬ神使の異類婚姻譚  作者: 大西 憩
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 今夜…と言ってももう時間としては夜になっていた。

「もう夜ですけど」

 稲がそう言うと「じゃあもう行かなくちゃねー」とモモタリは笑う。


「し、侵入なんて!」

 コウギョクが大きな声を上げた。稲は「そうそう、犯罪だ!」ってモモタリを咎めてくれ!とコウギョクに目を向ける。

「サスペンスの予感!ですね!」

 嬉しそうにそう続けたコウギョクはいそいそと自身のバッグから暗い色のパーカーを取り出し羽織った。

 続けるようにナンギョクも「サスペンスー…」と笑い、コウギョクと同じパーカーを羽織った。

 なかなかに常識の通じない面々だ。


「よーし、しゅっぱーつ」


 モモタリは元気よさげにそう言いみんな鼻歌交じりに玄関に向かう。

 今日の夕方ごろ稲の肩に頭を預け、具合悪そうに汗をかいていた人とは思えないくらいの元気さだった。


 *


「まだ電気が点いてるな」


 モモタリはそう言って「俺は姿消しとく」と手のひらをひらりと自身の顔の前に通過させた。

 稲から見るとさっきから何もわからない、丸見えなのだがこれで第三者から視えることはないらしい。

 便利な体でうらやましいと稲は思った。

「コウギョクちゃんたちは?」

 稲が尋ねると「疲れるのでこのままでいいです」とコウギョクは返事した。

 見た目はいつもの陶器めいた姿ではなく、生身の人間の子どもに近い状態だ。

「人間に変化しているとー…疲れますのでー…姿まで隠してはー…倒れてしまいますー…」

 ナンギョクはため息を吐いて答えた。神通力…というのも体力を使うそうだ。


「じゃあ、稲の教室へ向かうか」


 姿を消したであろうモモタリが先導するように歩いていく。


 夜の学校…というだけでも怖いが、廊下のあちらこちらに霊体や妖がうろついているのが視える稲はもう心臓がバクついていた。

 妖はどれかというと怖くないのだが問題は霊体だ。

 どれも制服を着ているものの、十年前に廃止になった制服を着ている学生も数人うろうろと歩いており完全な幽霊観がありちょっと稲は引いていた。

「ひー…こんな夜に学校に来たの初めて…」

 稲が涙目になりながら言うと「怖いのか?」とモモタリは尋ねた。

「そこまで怖くない自分も嫌なんですけど、なんでこんなに成仏しないのかって引いちゃってます」

 と稲は答えた。各教室の前に二人づつは霊体の学生がいるのだ。多すぎる。


「お、ここだな」


 稲の教室に着いたモモタリはぐわっと扉を開けた。

 これ、傍から見たら勝手に扉が開いたように見えるのだろうか。

 稲は見回りの先生と出くわさないようあたりを見回しつつ教室に入っていくモモタリに続いた。

「…いないですね」

 自分の席を見るもそこはもぬけのからだった。稲は安心して息を吐いた。

「うーん、他は渡り廊下か」

 そう言ってモモタリは足元に群がってきた小さな妖たちに「ちょっとごめんよ」と声をかけ部屋から出た。

 やはり夜は妖が多いようだ。稲は夜に差し掛かるあたりに昼間でも見かける妖たちに「家に帰れ!」と凄まれまくる生活をしていたのであまり夜に出かけたことはなかったので新鮮だ。

 稲があたりを見回しているとモモタリはいつのまにやら稲の隣に寄り添い「行くよ」と稲の手を取った。稲は自分の顔が熱くなるのを感じながら「まだこの人と知り合って四日しかたってないのに」と自分の気持ちを再確認し始めていた。

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