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僵れぬ神使の異類婚姻譚  作者: 大西 憩
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「モ…モモタリさん?」

 稲の手を掴んでいるモモタリの手に稲はもう片方の手を重ねる。


 モモタリは稲の呼びかけにハッとしたように何度か瞬きを繰り返すと、瞳の色はいつもの朱色に戻っていた。

 ぼたぼたと勢いよくモモタリの汗が稲の顔に落ちてくる。モモタリは過呼吸気味だ。

 稲は一種のご褒美なのではないかと顔を赤くしつつモモタリの背中をさすった。


「ははは、いつも愉快で無残な奴だなあ」


 カグラは笑って頭の後ろで手を組んだ。

「保護の術もその女に付与しているようだし、今我は手を出せんな」

 小さな口をつんと尖らせカグラはそう言う。

「やっぱりカグラさんが糸を引いてたんですね!」

 とコウギョクは大きな声で言うと「否」とカグラはコウギョクの口を自身の人差し指で制止した。


「糸…はな」


 カグラの橙色の瞳が輝き、瞳にコウギョクを映す。

「人の子ぉ、お前諦める気はないか?」

 パッと切り替えたかのようにカグラは顔を上げて稲を見た。

 稲はモモタリに包まれるように抱かれているので顔だけカグラに向ける。

「天龍とともにいては永遠にお前の望みは手に入らない。我はお前のさいわいのためにこれまで動いたまでよ」

 そう続けたカグラをみて稲は「さ、さいわい?」と返事する。


「そうだ!お前の望むさいわいはお前が死なねば叶わん!だから我がお前を此岸から引きはがしてやろう」


 稲が言葉を失っているとモモタリがゆっくりと顔を上げた「ほらね、こいつの普通は普通じゃないでしょ」と真っ青な顔のまま言った。

「力をはがせば死んでしまう。仕方ないだろ」

 少し拗ねたようにカグラはモモタリの言葉に答え「だが、今世で力だけでも抜き取れば輪廻し来世では力のない平凡なヒトとして産まれるであろう」と続けた。

 稲は困惑したまま「ど、どうして力を引っこ抜くと死ぬんですか?」と聞いた。

 コウギョクは「思ったよりも冷静な質問ですね」と稲に突っ込む。


「能力は魂に紐づいているからだ」


 カグラは人懐っこそうな笑顔のまま説明する。

「引きはがすことは可能だが剥ぐ際に魂も傷がつく。ヒトは弱いからな…まあ死ぬ」

 さして何でもないような顔をしているが遠回しに殺す宣言をされている。

 稲は「ひえ~…それは困りますね…」と答えた。

「望みを特別にかなえてやるというのに、強欲だな」

 少し頬を膨らませたカグラは可愛らしいが今この少女は稲のことを「あなたのために殺してあげるね♡」と遠回しに地雷系のような発言を繰り返しているだけだ。


 先ほどまで黙っていたモモタリがより強い力で稲を抱きしめる。

 稲は「ぐえ!」とカエルがつぶれたような声を上げてしまった。


「その必要はない」


 モモタリは顔を上げてカグラを見る。カグラは愉快そうに微笑んでいる。

「稲には俺が与える」

「お前の与える普通は異常だ」

 くつくつとカグラは喉奥で笑い「イネ!と言ったか!お前のさいわいのために我も最善を尽くそう!」と声高らかにカグラは言った。


「苗床の様子を見に行かねばならん。話はここまでだ」


 そう言ってカグラはゆったりと宙に浮くと座禅を組み「またな」と消えてしまった。

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