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多聞からプリントを受け取った稲は帰路についていた。
太陽は一番高い位置にあり、初夏だというのに嫌に晴れていて暑かった。
右手にコウギョク、左手にナンギョクと手を繋ぎ稲は「うあ~」とうめき声を上げた。
「暑すぎるよ~」
稲はそう言って顔だけ空に向けると、雲一つない青空が広がっていた。
「ご主人様はもう戻っている頃だと思います」
コウギョクがハキハキという。
「シャーベットー…作って待っておられますー…」
そのナンギョクの発言を聞いて稲は「シャーベットって人間の手で作れるの!?」と大きな声を出してしまった。
「主人はー…神の遣いですー…」
そんなナンギョクは返事を聞いて稲は「確かに…」と頷いた。
「そう言えば仕事って?」
稲が問うと「お祈りをー…されますー…」とナンギョクが返事をした。
その答えに稲が首を傾げているとコウギョクははきはきと「ご主人は!」と話し始めた。
「商売繁盛のご利益を町に与えねばなりませんので、それを祈らねばならないのです」
コウギョクの言葉を聞き稲は「へ~…商売の神様?なんだ」と返事した。
「正確にはー…勝ちの神ですー…」
「勝ち?」
稲は首を傾げたが、確かに以前モモタリは大和に向かって自身のことを「武神」だと言っていたことを思い出した。
「ですがー…今の世は戦などございませんー…」
「金運も司っておられる方なので、商売繫盛のお祈りをしてくださっておるのです!」
二人が嬉々とモモタリについて話す。二人ともモモタリはのことが好きなのが伝わってきて稲はなんだか幸せな気持ちになった。
「あ、あと、さっきのめっちゃ怖い妖…二人とも見えた?」
稲が聞くと、二人は互いに目を合わせた後に「子どもの妖ですか?」とコウギョクが稲に尋ねた。
「そうそう、あのメガネの大人の人に寄生?くっついてた?妖…うん。」
思い出しただけでも鳥肌が立つような妖だった。見た目は普通の学生くんなのだが彼の周りだけ異様に寒く、気温が五度は下がっていた気がする。
「あれは業の深い妖ですー…」
ナンギョクが言う。コウギョクも頷き「この世にどんな恨みがあればあのような姿になるんですかね」と首を傾げた。
「見た目は普通…だったけどな」
と、稲が言うとナンギョクとコウギョクはまた互いに顔を見合わせ「普通?」と声を合わせて一緒に首を傾げた。
その様子がまんま双子!という感じで稲は鼻の頭が熱くなる気持ちだった。
「奥方様?」
コウギョクが稲の顔を覗き込む。稲は顔をくしゃくしゃにしていた。
「どこかー…痛いですかー…?」
ナンギョクも心配そうに稲を覗き込む。
「いや…違くて…、双子…尊い…」
そんなことをいう稲を見て、双子はまた首を傾げた。