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「お、おーぅい、赤城さん?」
しばらくコウギョクとナンギョクを抱きしめたまま稲が目を瞑っていた。
そんな稲に多聞が後ろから声をかける。
恐る恐る振り向くと、先ほどまで多聞の肩口から首を伸ばしていた少年の妖はいなくなっていた。
「ど、どうしたんですか?」
多聞は本当に困惑し、心配しているようで身振り手振り稲に「大丈夫ですか?」とか「今日はもう早退したほうがいいですよ」とかいつもより良くしゃべった。
「す、すいません、眩暈がして…」
さすがに無理がある言い訳だよな…と稲は思ったが多聞は稲が声を発しただけでも満足らしく「そうですか、プリントだけまとめてあげますから少しここで待っていてください」と、小走りで職員室へと戻っていった。
「…奥方様」
コウギョクは稲に抱きしめられた胸元から顔をひょこりと出した。
コウギョクとナンギョクは以前であった時のような翡翠色した髪ではなくアッシュめいた黒髪になっていた。
作り物のような宝石をそのままはめ込んだ印象的だった瞳も、きゅるんとしたどんぐり目になっていた。
「二人とも…!なんで学校に…?」
そう言って腕の力が緩んだ隣の隙間からナンギョクも「ぷは」と息継ぎしつつ顔を出した。
「主人からー…お届け物ですー…」
ナンギョクは胸ポケットをまさぐると小さなお守りを稲に差し出した。
「モモタリさんから…?」
稲はそのお守りをナンギョクから受け取った。
小さな見た目とは裏腹に、ずっしりと重みを感じた。
「これって…」
「厄除けのお守りです!」
コウギョクが元気よく答えた。
「中にー…厄除けの鋼で出来た針が入っておりますー…」
ナンギョクは薄く口角を上げるように微笑んだ。
「主人はー…お仕事が入ったためこちらに向かえませんでしたー…」
そう言ったナンギョクに続けるようにコウギョクは「仕事を放ってこちらに向かおうとしていたのを僕らが止めました」と言った。
そんなコウギョクの頭をナンギョクは優しくなで「コウギョク、説明上手ー…えらいー…」と微笑んだ。
心なしか胸を張ったコウギョクは「その鋼も一級品です。そこら辺の妖は奥方様へ殺気すら向けれませんよ」と付け加えるように言った。
「…二人はどっちがお兄さんとかお姉さんとか、あるの?」
稲が尋ねると「お姉さんですー…」とナンギョクは小さく挙手し、コウギョクは「自慢の姉様です!」と先ほどよりも堂々と胸を張った。