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夕飯時…より少し早い時間ということもあり商店街はたくさんの人があふれていた。
稲はモモタリと繋いでいる方の手だけ異様に発汗しているのを感じていた。…手汗が尋常じゃない、手の汗だけで痩せそうだ。
異性と手を繋ぐなんて幼稚園ぶりの稲はもう過呼吸になりかけである。
モモタリの表情を窺おうと顔を見上げると、モモタリは商店街のあちこちをきょろきょろと見渡しており、観光地へやってきた海外の人のように見える。
「以前ナンギョクからここの写真は見せてもらっていたんだけど、どうにもあいつの目線が低くて全く風景が分からなかったんだ」
愉快そうに「人々の臀部のアップばかりで」とモモタリは笑いながら続けた。
「ナンギョクちゃんはここによく来るんですか?」
稲はナンギョクやコウギョクのあの独特な髪色や髪型、顔つきを思い出していた。
青みのある薄い緑色をしているし顔立ちも瞳が大きくまるで作り物…フィギュアのようだったので、なかなかに目立ちそうだ。
「行くたびにいろいろと買ってくるよ。人に姿を似せて。そこらの子どもと同じように扱ってもらえるから商店街は好きらしい」
「ナンギョクちゃんたちは…普通の子どもではないんですか?」
うすうす感づいてはいたもののやっぱりあの子たちも妖の類らしい。
「俺の使役する鉱石の…妖精のようなものかな」
「鉱石…」
使役する…という単語を稲は初めて聞いた。
まあ自身でモモタリの従者だとも名乗ってもいたし…主従関係があるんだろう。
「翡翠を媒体にしている」
「それであの髪色なんですね」
確かに綺麗な翡翠色だと稲は思った。肌もつるっとしておりまるで磨かれた石のようなので、鉱石の妖精と言われて稲は深く納得した。
「モモタリさんはどうして神社から出てこなかったんですか?」
言葉にしてから率直すぎたか…と稲は慌てたがモモタリは「そうだなあ」とのんびり返事した。
「自分への罰、かな」
一瞬、物悲しい瞳でモモタリが遠くを見たので稲はいらないことを聞いたとすぐ後悔した。
「あ、ごめんなさ…」稲が謝罪をしようと口を開いたがそれに被るようにモモタリは「イネ!」と元気よく呼んだ。
「は、はい!」
モモタリは稲をしっかりと見つめ「花屋はここにある?」と尋ねた。
花屋は商店街の中腹にある。
稲はモモタリの手をぎゅっと握り「こ、こちらです」と案内のために腕を引いた。