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モモタリの作った朝食は見た目だけでなく味も絶品だった。
食材はどうしたのかと尋ねるとモモタリがこちらに向かう前からナンギョクに頼んであり、昨日の夜に玄関前に置いていってもらっていたらしい。
どのおかずも稲好みの味付けで、寝起きだというのに稲はぱくぱくとどれも完食してしまった。ごちそうさまの合掌を終えてすぐ、稲は遠くを見つめながら「ダイエットしてたんですけどね」と遠い目で呟いた。
「イネはそのままでももっと太ってもかわいいと思う」
稲の言葉に反応したモモタリがにっこりと笑うが、稲はほっそりとしたモモタリにそんなことを言われても嫌味にしか思えなかった。
「…顔から太るんですよ」
「顔?」
「すぐ、丸くなってしまうので」
「それは…、かわいらしいね」
丸くなった稲を想像したのかくすっとモモタリが笑う。…あまりにも顔が整いすぎているので笑うだけで背景に花々が飛んでいる幻覚が見えるほどだ。モモタリは神の遣いだしきっと人間である稲のように太ったりなんてしないのだろう。
そんな話をしながら片付けていると、インターホンが鳴った。
インターホンのモニターを稲がのぞき込むとそこにはカンカン帽をかぶった和服の少年が映っていた。稲が少年に向かって「はい」と返事をすると「コウギョクと申します」と礼儀正しく、テキパキとした声で返事が返ってきた。
「来た」
と、モモタリが嬉しそうに言うので稲は「今開けますね」とマンション正門のカギを開けた。
そしてまたしばらくすると部屋のチャイムが鳴り、モモタリが出た。
「ご主人、お久しぶりです」
帽子を取りきっちりと四五度に腰を曲げて礼をする少年は、以前神社の本殿で出会ったナンギョクと同じ髪色と瞳の色をしていた。双子だとは聞いていたが…確かに顔立ちがそっくりだ。
コウギョクのほうがナンギョクよりも眉が吊り上がっており真面目そうな顔立ちに見える。髪型はナンギョクの長髪と違い散切りであるため見分けるのは容易だろう。
「持ってきたか」
嬉しそうにモモタリがコウギョクへ尋ねた。モモタリの開けた玄関扉からするりと中に入ったコウギョクはテキパキと鍵をかけ振り向くと「はい、お持ちしました」と生真面目そうに答えた。
コウギョクは自身の手提げの中をまさぐり、中から五枚ほどの板を取り出した。
「これは…?」
稲がモモタリの後ろから覗き込むようにして言うと「厄除けの札だよ」とモモタリが答えた。
神社でそんな札売っていたな…と稲は普段人っ子一人やってこない神社の売店を思い描いた。
「奥方様…!」
コウギョクはきゅるんとした大きな黒い瞳に稲を映し、深く稲に頭を下げた。
「お、奥方様!?」
稲は慌てて九十度ほどがっつり頭を下げているコウギョクに頭を上げてほしいとお願いした。そして「稲でいいからね!」と呼び方を釘刺した。
コウギョクはどうして稲が慌てているのか理解しきれていないのか首を傾げながらきょとんとしていた。