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僵れぬ神使の異類婚姻譚  作者: 大西 憩
2/51

01

 赤城(あかぎ)(いね)は学校をさぼりがちだ。

 成績は中の中ほとんどさぼってこれなのだから勉強をすればもっと上を目指せそうなものだが稲は真ん中ぐらいが一番落ち着く。

 百人中五十位、三人中二位…真ん中というのは目立つこともなく幸せだ。



 今は初夏の頃なので、日差しが強くなってきていた。その日差しを受け青々とした木々や草花がさわやかで気持ちがいい。

 そんな陽気の中、稲は揚々と学校をさぼりお気に入りのスポットである神社に向かっていた。


 神社への道中、道端にうずくまるようにする子どもを稲は見つけた。

 …具合でも悪いのかな。と、稲は子どもに近付いた。子どもは小さな声で唸っているようだった。

「だ、大丈夫?」

 稲が子どもの肩を叩こうと手を伸ばすと、子どもの首がグリンっと勢いよくこっちを向いた。


 どう考えても、曲がってはいけない方向に曲がっている。

 子どもの顔は中央にぽっかりと穴が開いていて、目も鼻も口もない。

 穴から空気と人間が唸るような小さな音だけが聞こえる。


「あちゃ…」


 稲は出した手を引っ込め、ポケットから急いで()()()を取り出した。


鳶頭(とびず)神社の神主(息子)から賜った清い塩攻撃をくらえ!」


 稲はそう叫ぶと、子どもの姿をした化け物に塩を投げかける。

 化け物は大きな唸り声を上げるとその場でもがき、ゆっくりと消えた。


 幼いころから稲は"(あやかし)"を見ることができた。


 基本それらは稲へ悪さはしてこず、時には稲の手助けをしたり遊び相手になってくれた。稲はそんな妖たちが好きだったし、恐ろしいと感じたことは少なかった。

 …だが、ここ数年はそのような姿はなりを潜め、どういうわけか襲われる日々が続いてる。


 敵意のあるなしは妖の顔を見ればわかる。…先ほどの妖に顔はなかったが。

 今にも殺してやるという殺気を感じるのだ。


「知り合いに神主(息子)がいなかったらどうなっていたことか…」


 稲はそうぼやき、ポケットに()()()もとい()()()()を仕舞った。

 最初は気休め程度に持ち歩いていたのだが、どういうわけか効果てきめん。悪い妖はこれで(はら)えるのだ。


 稲は先ほどまで化け物が座り込んでいたあたりを見た。

 つるっとしたコンクリートの地面はどこはかとなく黒ずんでおり、何かが引きずられたような跡だけが残っていた。

 そこに向かって稲は手を合わせ「次生まれるときは幸せでありますように」と願った。



 その足で神社まで稲はやってきた。

 出入り口には掃除をしている神主のおじさんがいた。


「稲ちゃん、今日もさぼりかい?」

「あはは、さぼっちゃいました」

「ははは、学校なんて行きたいときに行けばいいさ」


 おじさんはそう言って「いつも来てくれてありがとうね」と続けた。

 今はこんなに穏やかかつ朗らかな神主のおじさんだが若いころは相当やんちゃだったそうで「学校の窓は全部割った」とのことだった。彼から見たら稲のちょっとしたおさぼりなんてかわいいものなのだろう。


 そんな神主さんに軽く頭を下げ、稲は鳥居をくぐり階段を駆け上った。


 …そして冒頭に戻る。というわけだ。

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