☆第7話 プロローグ⑦
新話、追加いたしました。
仕事をしながら書いているので投稿がスローペースになるかもしれませんが、
今後ともよろしくお願いします。
『私、陽のことがキライ…大嫌い!』
『陽は、いつまでたっても子どものまま。でも私は陽とは違うの。どんどん大人になって行くの』
空…いったい、急にどうしたというんだ?
今まで、幼い頃からずっと二人で仲良くしてきたじゃないか。
それなのに、空は急に別れようと言ってきた。そして、俺が嫌いだとも…
何故…何故…
俺は呆然としたまま歩き続けた。頭の中が真っ白になって、思考が追い付いていかない。
『私、陽ちゃんのお嫁さんになるんだ』
俺はただ、空とずっと一緒にいたかっただけだ。
空とずっと仲良くして、そして大人になったら結婚して、そして子どもが生まれて、そして…
俺が描いていた空との未来が、全て砂城のように崩れ落ちていく。
何故…何故…
俺は、時折よろめきながらも、歩き続けた。ただただ歩き続けた。
◇
気がつくと、俺は呆然としたまま繁華街を歩いていた。まるで害虫が、灯りを求め彷徨うように。
ただ、トボトボ、トボトボと。
何処へ行くあてもなく、かといって家に帰る気にもなれず、ただ、ぼんやりと歩いていた。
やがて雨雲がわき、ゴロゴロと雷が鳴りだしたが、今の俺には、何の感情も無い。
そして急にスコールのような雨が降ってきた。
夕暮れ時から既に暗闇へと変化した街を、雨の降る中ずぶ濡れになったまま、ただただ歩いていた。
空……何故…何故…
「あぶない!!」
キーーーーーーーーッ!!
車の甲高いスキール音が鳴り響く。
「うわああああ!!」
ドタッ!!
俺は誰かに腕を引っ張られて、歩道に倒れ込んだ。
「いたたたっ」
はっとして周りを見回すと、目の前に車が止まっている。どうやら俺を避けようと急停止したようだ。
「バカ野郎!どこ見てんだ!あぶねーだろ!気をつけろや!クソが」
若い男性ドライバーが助手席の窓を開けて、車内から俺に向かって怒鳴り散らした。
そして車は勢いよく走り去っていく。
「ちょっと君!赤信号で横断歩道を渡ろうなんて、一体何考えてんのよ!」
その声で俺はやっと現状を把握した。
そうか、俺はぼーっとしていて、赤信号の横断歩道を渡ろうとしていたんだ。
そして直進してきた車にぶつかりそうになって、そして誰かが腕を引っ張って助けてくれたんだ。
「ちょっと、私の声聞こえてる?君、死にたいの?」
俺は地面に倒れ込んだまま、声の主の方に顔を向けた。
するとそこには、一人の少女が立っていた。
「私が助けなかったら、君、完全に車にぶつかっていたわよ?」
「ああ…助けてくれて、ありがとう」
「まったく、私までずぶ濡れになったじゃないの」
少女はそう言いながら落ちていた傘を拾って持ち、俺の腕を掴んで立ち上がらせてくれた。
「君、その制服、青蘭学園高校じゃないの。何年生?」
「ああ…1年です」
「私の1個上ね。名前は?」
「あ、紅井陽です」
「そう、私は青蘭学園中学3年の道明寺 萌!校舎が隣どうしだから、会うこともあるかもね。てか 君、ずぶ濡れでぼーっと歩いてて、頭大丈夫?」
「ああ…ごめん」
俺はそう言いながら、少女を見つめる。
その少女は中学3年生にしては、かなり大人びた雰囲気だった。
しゃべり方もなんか、かなり、ませているなあ。
長い髪の毛の両サイドをリボンで結んでいるのが印象的だ。
「あのね、何があったか知らないけど、もう家に帰りなさいよ」
その少女、道明寺萌という中学生は、あきれ顔でそう言った。
「ああ…」
俺は、ぼーっと、その少女の顔を見ていた。
「まったくもう。じゃあ私はもう行くからね。しっかりしなさいよ!」
そう言うと少女は何やらぶつぶつ言いながら去って行った。
◇
俺は雨の中をずぶ濡れのまま、トボトボと、家へと向かって歩いて行く。
歩きながら、何故か自然に涙が流れてきた。
何故…何故…
俺は長い時間をかけて家の前までたどり着き、ふと空の家を見上げた。
2階の空の部屋は真っ暗だった。
俺はそのまま自宅の玄関のドアを開けて中に入り、うつむいたまま突っ立っていた。
「陽、何処に行ってた…どうしたのよ!ずぶ濡れじゃない!」
姉貴が驚いたような顔をしてそう言うと、洗面所からタオルを持ってきてくれた。
「とりあえず、早く着替えなよ!風邪ひいちゃうじゃないの」
俺はタオルで頭を拭きながら階段を上がり、自室へと入った。
電気をつけ、制服を脱ぎ、スウェットに着替えて眼鏡を外し、ベッドに寝転がる。
何故…何故…
その言葉だけが、頭の中をぐるぐると回っている。
ベットの上でただ天井をぼんやりと見つめていると、姉の沙希がドアをノックして部屋に入ってきた。
「陽、なんかあったの?ずぶ濡れになって、顔色も悪いし、あんた、なんか普通じゃないわよ?」
勘のいい姉貴が何事かと心配そうに聞いてきたが、今は誰ともしゃべりたくない。
俺は「なんでもないから」と言って姉貴を部屋から追い出した。
今は誰ともしゃべりたくない。
「陽、何かあったのなら、お姉ちゃんに言ってよ。いつでも話を聞くからね」
姉貴はドアの外からそう言ってリビングへと戻って行った。
俺は電気を消して、暗い部屋の中でただベッドに横たわって天井を見つめていた。
俺はこれからどうなってしまうんだろう。どう生活していけばいいんだろう。
そんなことを考えながら暗黒の空間をずっと見つめていた。
なんだか疲れたなあ。もうどうでもいいや。何もかも…
そしていつしか俺は、深い眠りへと落ちて行った。
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