☆第4話 プロローグ④
空は袋から弁当箱2つを取り出した。
「はい、陽、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
俺はすみっこぐらしの可愛い弁当箱を受け取り、蓋を開けた。
卵焼きに、唐揚げ、ハンバーク、ポテトサラダにミニトマト。そしてタコさんウインナー。
それらのおかずが彩りよく並んでいる。とても美味しそうだ。
「陽、どう?私かなり頑張って作ったんだからね。」
「うんうん。いつもに増して、とっても美味しそうだよ」
「えへへー、そうでしょ?」
こんなに美味しそうなお弁当を、それも空が作った弁当を食べられるなんて、俺は幸せ者だなあ。
空も自分の弁当の蓋を開け、俺に箸を渡してくれた。
「いただきます!」
俺はそう言いながら空を見ると、なんだか頬を赤らめてもじもじしている。
「空、どうしたの?食べないの?」
「あのさ、陽、いつもみたいに、お互いにあーんして食べない?」
「ああ、お互いに食べさえ合うのね?いいよ」
そんなこと、学校でいつもしてるじゃない。何を今更恥ずかしがってるのよ。
「じゃあ、まずは俺が食べさせてあげる。何がいい?」
「えとお・・・卵焼き」
「よし、卵焼きね、ほら、空、あーん」
俺は箸で卵焼きをつまみ、空の口へ近づけた。空は小さなお口を大きくあけて卵焼きを待っている。
「あーん。パクッ。モグモグ」
「どう?美味しい?」
「うん、美味しい。て言うか、私が作ったんですけどね」
それはそうだ。自分の作った料理を自分で食べてるんだから。
「じゃあ、次は俺だね。そう、唐揚げが食べたいな」
「うん、わかった」
そう言うと空は箸をから揚げに突き刺した。箸を突き刺すとか、意外に豪快だね。
「陽、はい、あーん」
空はそう言って、箸で突き刺した唐揚げを俺の口に近づけた。
「あーん。パクッ。モグモグ」
「唐揚げ、どう?」
「うん、うん、めちゃくちゃ美味しいよ」
「よかったあ、えへへ」
空の手作り唐揚げは、ジューシーでとても美味しかった。冷凍物とは全然違う。
目の前にいる家族連れの海水浴客が、呆れたような顔で、俺達をずっと見ていた。
そして俺はタコさんウインナーを箸でつまみ、空にこう言った。
「俺、タコさんウインナーが食べたい。空、ウインナーを口に咥えて」
「え?ウインナーを口に?」
「そう、今から咥えさせるけど、食べないでね」
「うん、わかった」
俺はタコさんウインナーを空の口に持って行った。そして空はウインナーを半分まで咥える。
そして俺は空に顔を近づけて、ウインナーをパクッとし、そのまま空にチュッとキスをした。
「ああ、陽、いまキスしたあ、ズルイ」
空の頬が真っ赤に染まる。俺は空とのキスウインナーを美味しくほおばる。
「もう陽ったら、やることがホント子どもなんだから」
そうして空は、頬をぷくっと膨らませて、あきれ顔で俺を見た。
そうして俺達の楽しいお弁当タイムは終了した。
◇
それからもう一度二人で海に入り、海水浴を満喫した。
二人で手を繋ぎ、ワーっと叫びながら浅瀬に飛び込んだ。
空はつまずいて、ゴロンと転がった。手を繋いでいたので、俺も一緒に転がった。
「もう、陽、何やってんのよ」
「いや、空が先に転んだんじゃないの」
「皆んな見てて恥ずかしいよ」
周りを見ると、小学校低学年位の男の子が、こちらを指さして笑っていた。
空は浅瀬に座って、寄せては返す波を楽しみ始めた。そんな空の隣に俺も座りこむ。
二人で浅瀬に座って、海水を足でチャプチャプして遊んでいた。
小さな波が押し寄せてきて、二人を濡らす。冷たくて気持ちがいい。
空は足で海水をチャプチャプしながら、俺に話しかけた。
「ねえ、陽。海って楽しいよね」
「うん、めっちゃ楽しいね」
「また…一緒に来られるかな…」
「うん、また一緒に来ようね」
「そうだね…」
その時の空の横顔は、何処か寂しそうにみえた。
◇
「空、そろそろ帰ろうか」
「うん…」
俺達はテントに戻って来た。
俺達は無言で帰り支度を始めた。
俺がテントを片付けている間、空は、膨らんでいる浮き輪を萎ませている。
ただただ無言で、浮き輪を萎ませている。
その光景が、俺にはなんだか祭りの後のように寂し気に見えた。
帰り支度を整えた俺達は、海の家へと戻って行く。
シャワーを浴び、更衣室で着がえを済ませた俺は、空が戻って来るまで、お土産コーナーをぶらついた。
やがて空も着がえを済ませて俺のもとに寄って来た。
「あっ、陽、これ、私これ欲しい」
空が指さしたのは、プラケースに入った、白い渦巻状の貝殻だった。
「この貝殻、欲しいの?」
「うん」
「じゃあ今日の記念に、二人お揃いで買って行こう」
俺は色や形をよく見て、二人の記念に相応しい貝殻を2つ選んだ。
レジで会計を済ませ、両手に1個づつ貝殻を乗せて、空に聞いた。
「空、どっちがいい?」
空は口に指を当てて少し悩んで、右手に乗っている貝殻を選んだ。
「じゃあ、こっちが空、そしてこれが俺のね」
「陽、私めっちゃ嬉しい、ありがとう」
空は嬉しそうに、満面の笑みで俺を見た。その笑顔は、とても眩しかった。
「陽と私の貝殻。えへへ」
「空、さあ、帰ろう」
「うん…」
こうして俺達は駅へと戻って行った。
空との海、本当に、本当に楽しかった。また来ようね、空!
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