☆第31話 ラウンドAにて②
皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。
今回のお話では、愛菜の屈託のない可愛さを表現したつもりです。
ボウリング1ゲーム目。
大輝と美織は、ストライクとスペアを積み上げていく。
愛菜は美織のレクチャーのお蔭か、中盤くらいから投球が安定してきて、スペアをとるまでになった。
俺も投球しているうちにだんだんと感を取り戻し、スペア、そしてストライクも取った。
俺がストライクを取ると、愛菜は「すごーい!」と言って飛び上がって喜んだ。
だが俺と愛菜の健闘も虚しく、1ゲーム目は、大輝と美織の合計スコアが460点、俺と愛菜はハンデのポイントを入れても合計310ポイントで大敗だった。
俺達はイスに腰を降ろして一旦休憩をした。
すると大輝が首を前後左右に屈伸しながら言った。
「俺、ちょっとドリンク買ってくるわ。美織も行こうぜ」
「ええ、いきましょ。陽と愛菜ちゃんは何がいい?」
「私はメロンソーダか、ピーチジュースがいい!」
「じゃあ、おれは、コーラを」
そうして大輝と美織が席を離れると、愛菜が俺にすり寄ってきて言った。
「ねえ陽、このままじゃ私たち、負けちゃうね」
愛菜はニコニコとしていて、なんだか負けるのを求めているような感じがした。
「なんだよ、愛菜は負けていいのかよ」
「そんなことないよ。私、大輝と美織ちゃんが抱き合うの、見たいし」
「本当だな?だったら、2ゲーム目、取りに行くぞ」
「りょうかい!」
愛菜はそう言って、俺に左手で敬礼をしてみせた。
そして大輝と美織がドリンクを買って帰ってきた。大輝は俺のおごりだと言って、俺達にドリンクを渡した。
そして暫しの休憩の後、2ゲーム目が始まった。
結果は、健闘虚しくまたもや俺と愛菜の敗退。これで勝敗は決した。俺達のストレート負けだ。
すると大輝が、ニヤニヤと勝ち誇った様な顔で言った。
「さてと陽、愛菜ちゃん、バツゲームだぞ。用意はいいか?」
「陽と抱きつくの?いや~ん」
そう言いながら、愛菜はニコニコと笑っている。
はあ。大輝と美織にまんまとハメられたな。これって、もともと出来レースみたいなもんじゃないかよ。
「陽、勝負は勝負だからな。覚悟を決めて、愛菜ちゃんと抱き合えよ」
大輝はニヤニヤとしながらそう言ってスマホを取り出した。
美織もしれっとスマホを出して、俺達にカメラを向けた。
俺は覚悟を決めて、立ち上がった。愛菜も立ち上がって、俺をじっと見つめている。
「よし、おまえら、俺の生き様をよく見ておけよ!」
俺はそんな大袈裟な言い回しをして、愛菜を抱き寄せた。
愛菜は俺に抱きつき、俺の腰に手を回す。愛菜が俺を見上げると、顔と顔とが近づいた。
その瞬間を、大輝と美織がスマホでカシャカシャと撮影する。
そして愛菜は背伸びをして、俺の頬にキスをした。
愛菜のツインテの髪からは甘い香りがして、俺の鼻腔をくすぐった。
「おいおい愛菜、キスは反則だろ!」
俺は慌てて愛菜を遠ざけた。愛菜はきゃははと笑いながら言った。
「別に、ほっぺにチュウくらいいいじゃん!サービスだよ、サービス、きゃはは」
すると大輝が真面目な顔で言った。
「よし、キスの場面もしっかり撮れたぞ。喜べ、陽」
「いやいや、キスはまずいだろ!それは消せよ!」
すると愛菜が自分のスマホを取り出して大輝に言った。
「大輝、今の画像、私に全部送ってよ」
「もちろんいいとも。ちょっと待てよ……よし、全員に送ったからな」
俺はスマホを取り出してLINEを見た。大輝から、俺と愛菜が抱きついている画像とキス画像が送られていた。
「うわあ、私と陽がキスしてるう。いやらしい。あはは」
愛菜は画像を見てニコニコしながら嬉しそうにしている。
「うんうん、いい写真じゃない。お似合いの二人だわ」
そう言って美織も頬を赤らめている。
いやいや、おまえら、おふざけが過ぎるぞ!
「お前ら、この画像、絶対に他に見せるなよ?」
「わかってるよ、誰にも見せないから安心しろ。俺達4人で共有するだけだから。なあ?」
大輝がスマホを眺め、ニヤニヤしながら言った。
はあ。遊びとはいえ、こんな写真が流出したらマジで困るぞ。
特に、萌には、絶対に見せられない画像だ。
「じゃあ次は、ゲームコーナーに行こう!クレーンゲームやりたいなー」
そう言いながら愛菜が俺たちに向かって右手でおいでおいでをする。
俺たちは割り勘で受付で支払いを済ませた後、1階のゲームコーナーへと移動した。
1階ワンフロアは全てゲームコーナーで、クレーンゲーム、メダルゲームその他多数のアトラクションゲームが並んでいた。
俺たち4人はゲームコーナーを歩いて回っていた。
「あ、私、このアニメ好きなの、大樹、取れる?」
美織が可愛いアニメキャラのフィギアを指さして大樹に言った。
「ああ、任せておけ」
大樹はそう言うと、腕まくりをして小銭を入れてクレーンゲームを始めた。
ふむふむ、やっぱり大樹と美織はお似合いじゃないか。
これなら大樹が童貞を捨てる日も近いかもな。わからんけど。
すると愛菜が俺の腕を引っ張って言った。
「ねえ陽、大樹と美織ちゃん、いい雰囲気じゃない?私たちも楽しもうよ」
そう言うと愛菜は大樹達から離れて歩いて行った。俺も愛菜の後をついていく。
「あ、私これ欲しい!陽、これ取ってー」
愛菜が指さしたのは、少し大きめの、すみっこぐらしのクッションだった。
これはなかなかに難しそうだぞ。
ふと愛菜を見ると、いつの間にかポップキャンディを口に咥えている。
「愛菜、そのキャンディどうしたの?」
「家から持ってきたの!いいから早くとってよ」
愛菜はポップキャンディを舌を出してペロペロと舐めながら、哀願の表情で俺をじっと見つめている。
愛菜ちゃんちょうでちゅかあ。キャンディーぺろぺろなめながら、かわいいでちゅねえ。
愛菜、おまえ子どもか!
まあ、なんとかやってみるか。このゲームは1回100円だ。
俺は100円を入れてクレーンを動かした。クッションに標準を合わせて、降下ボタンを押す。
するとクッションが持ち上がり、そして移動時のガクンという衝撃で下に落ちた。
「ああん、もう陽ったら全然ダメじゃない。んもう」
「いや愛菜、こういうのは1回で取るのはむずいんだよ!少しずつ穴に近づけていかないと」
そう言いながら俺はまた100円を投入してゲームを始める。
そしてまた100円…100円…。
500円使っても、落ちる気配が全く感じられない。
「んもう、陽ったら何やってんのよう。もう我慢の限界。私の奥の手を使うから、ちょっと待ってて」
そう言うと愛菜は何処かへ歩いて行った。
俺がその場で暫く待っていると、愛菜は茶髪の若い男性店員を連れてきた。
すると愛菜はその店員の腕をつかみ、瞳をうるうるさせて言った。
「お兄さん、私ね、これどうしても欲しいの。でもね、もう3000円も使ってるんだけど、全然取れないの。何とかしてほしいなあ」
そして愛菜は瞳に涙を浮かべ、男性店員に密着して、店員の顔をじっと見つめた。
すると茶髪の男性店員は、少し顔を赤らめながら言った。
「さ、3000円ですか…わかりました、ちょっと待っていてください」
すると男性店員はウインドウを開けて、どう考えても一撃で落ちるであろう場所までクッションを移動してくれた。
「本当はこれはやらないんですが、今回だけ特別ですよ」
「ありがとう、イケメン店員さん!」
「は、はい。ではお楽しみ下さい」
そう言うと店員は何処かへ移動して行った。愛菜は店員が消えていった方向に向かって、あっかんべーをした。
だから愛菜、子どもか!
「愛菜、俺まだ3000円も使ってないぞ?」
「あらそうだっけ?じゃあ私の計算間違いね。私、算数苦手だから。きゃはは」
うん…まあ、いいか。クッションは店員によってもう落ちる寸前まで移動してある。
俺は100円を追加してクレーンを移動する。これで取れなかったらアホだ。
クッションは持ち上がり、コロッと穴に落ちて行った。
「やったあ!とれたとれた!あははは」
そう言って愛菜はすみっこぐらしクッションを取り出し、両手で抱えて俺に「ありがとう」と言ってニッコリと笑った。
その屈託のない笑顔に、俺もつられて笑顔になった。
すると大きなビニール袋を持った大樹と、ニコニコ笑顔の美織がやってきた。
「今日はまずまずの成果だな。美織のフィギアを3個GETしたぞ」
そう言って大樹が満足げに頷く。
「ええ、大樹ありがとう。私、本当に嬉しいわ」
美織は頬をピンク色に染めながら、大樹を見つめて言った。
大樹は美織から目線を外して、照れたように頭を掻いた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
俺がそう言うと皆が頷き、4人はエントランスから店外へ出てきた。
大樹は美織を送っていくからと言って、二人で歩いて行った。
「さて、俺たちも帰るか。愛菜、家まで送っていくよ」
「ほんと?うれしい、きゃは」
そう言いながら、愛菜は俺に左手を差し出した。
俺はその手を右手で包み込んだ。
そうして俺たち二人は手をつなぎ、夕日を背にして、笑い合いながら帰って行った。
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