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☆第28話 ありがとう

皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。

なかなか投稿が進まず、申し訳ありません。

俺は石川さんの運転で、萌の車で家の前まで送ってもらった。


俺が車から降りると、萌も車から降りて来た。



「石川、ちょっと待っていて、私、陽君のご家族にご挨拶くてくるわ」



「萌、挨拶なんていいよ」



「いえ、こんなに遅い時間になってしまったし、ご挨拶だけでもしておきたいわ」



そうして俺は玄関のドアを開けて、萌を迎え入れた。


俺がただいまと言うと、姉の沙希が玄関まで出て来た。



「陽おかえり。あら、その子は?」



「初めてお目にかかります。私は道明寺萌と申します」



「萌ちゃん…ああ。陽を送ってきてくれたのね。ありがとう」



「あの、陽君のこと、よろしくお願いします」



萌はそう言うと、姉にちょこんと頭を下げた。


姉貴は萌に、少し寄っていったら、と笑顔で言ったけど、萌は車を待たせてあるからと丁重に断った。



「じゃあ、萌ちゃん、今度ゆっくり遊びにきてね」



「はい、ありがとうございます。またお邪魔します」



そうして萌はまた、ちょこんと頭を下げて、失礼しますと言って玄関を出て行く。


俺も玄関を出て、萌を見送った。



「萌、今日は色々と、ありがとう」



「いいの、陽君、元気を出して。また明日学校でお会いしましょう」



そう言うと萌は車に乗り込み、車の中から手を振り笑顔を見せた。


やがて萌の車はゆっくりと走り出し、俺は車が見えなくなるまで見送った。





家の中に入ると、玄関口で姉貴が待っていた。



「萌ちゃん、本当に可愛くていい子だね。家に女の子が来るの、空ちゃん以外では初めてじゃない」



「うん…そうだね…」



「陽、どうしたの?なんか元気がないじゃない。それに、顔が真っ青だよ」



姉貴は笑顔から一転心配そうな顔になって、俺をじっと見つめている。


俺は、何でもないから、と言って、階段を上がり自分の部屋に入った。



部屋に入ると俺はカバンを机に置き、制服を脱ぎ部屋着に着替えて、ベッドに寝転がった。


そして天井をぼーっと見つめる。はあ、今日はなんだか疲れたなあ。


先程の湊斗との出来事が、頭の中に浮かんでくる。


俺はなんでこんなに落ち込んでいるんだろう。もう空のことは忘れたんじゃないのか?


だとすれば、湊斗が何を言おうと、俺の心は傷つかないはずだ。


それとも、奴らにここまでされて、俺はまだ空に未練があると言うのか?


もしかしたら…幼少時からの空との付き合いが、年月が、長過ぎるのかも知れないなあ。




『私、陽ちゃんのお嫁さんになるんだ』




もう嫌だ!やめてくれ!もう、やめてくれ!!


今までの空との出来事が、俺の頭の中にフラッシュバックしてくる。


もう、勘弁してくれ…



するとドアをコンコンとノックして、姉貴が部屋に入ってきた。



「陽、大丈夫?」



姉貴は心配そうにそう言うと、俺の机の椅子に座り込んだ。


俺はベッドに寝転がったまま、姉貴の顔を見る。


姉貴は暫く黙ったまま、俺を見つめている。その顔は、どこか寂し気だった。


やがて姉貴が静かに話し始めた。



「陽、空ちゃん、もうずっと顔を見せないわね。もしかして、あなたたち、別れたの?」



それを聞いて、俺は無言のまま姉貴に背を向ける。何も話したくない。何も。


すると姉貴は、はあーっと一息ついて、背を向けたままの俺に話しかける。



「陽、言いたくないなら、それでもいいけど…お姉ちゃんね、夏頃から空ちゃんとあんたの事、なんかおかしいなって。それでずっと心配していたのよ」



俺はただ黙ったまま、姉貴の話を聞いていた。



「今日も学校で何かあったんでしょ?萌ちゃん…心配そうにしてたわね…」



そうだ、萌はずっと俺の側にいて心配してくれていた。


萌だけじゃない。愛菜も、大輝も、優太も、拓也も、そして美織も…。


みんな、俺の事を気遣い、心配してくれている。


なのに、俺はまだ女々しく、ぐずぐずとしている。なんだか、みんなに申し訳ない気持ちが沸きあがってくる。



すると姉貴はイスから立ち上がり、俺の肩に手を差しのべて言った。



「お姉ちゃんは何があっても陽の味方だからね。だって、私の大切な弟だもの」



そう一言残して、姉貴は部屋から出て行った。


俺はまた仰向けになり、天井を見つめながら、色々と考えていた。





どれくらいそうしていただろう。


やがてまたドアをノックして、姉貴が部屋に入ってきた。


手にはトレーを持っていて、その上には小鍋とコップが置かれている。



「陽、おせっかいかも知れないけど、玉子雑炊を作ってきたわよ」



そうして姉貴は、優しい笑顔で、俺に近づいて来た。



「お姉ちゃん、陽が学校で何があったのかは聞かないよ。空ちゃんとのことも…。食欲が無いのかも知れないけど、少しはお腹に何か入れておきなさい」



ああ、そう言えば…いつも料理をしない姉貴だけど、俺が病気や元気の無い時には、いつもこうして玉子雑炊を作ってくれたっけ。


俺はゆっくりと起き上がり、ベッドに腰かけた。


するとお姉ちゃんは、トレーを俺の膝の上に置いた。


そして俺の横に座り、小鍋の蓋を開けた。すると、ふわっと湯気が舞い上がった。


俺はお姉ちゃんからレンゲを受け取り、玉子雑炊をふうふうしながら、一口食べた。



「陽、どう、美味しい?」



「…味が、薄い」



本当は、お姉ちゃんの玉子雑炊は、とても美味しかった。


でも俺は、素直に美味しいと言えなかった。それに「ありがとう」の感謝の一言も言えない。


そんな俺を、お姉ちゃんは何も言わずにニコニコしながら眺めている。


俺はただもくもくと、玉子雑炊を食べ続けた。


雑炊を食べ続けているうちに、いつしか俺の目から涙が流れていた。


そんな俺を、お姉ちゃんは優しい眼差しで見つめ続けている。



俺は雑炊を食べ終わり、レンゲをコトンとトレーに置いた。



お姉ちゃんの無言の優しさに触れ、俺は抑えていた感情が溢れ出して、涙が止まらなくなってしまった。


俺は嗚咽しながら今までのこと、空のこと、湊斗のこと、それら全てをお姉ちゃんに打ち明けた。


お姉ちゃんは、俺の言うことを、ただ黙って聞いていてくれた。


そしてお姉ちゃんの瞳からも、一筋の涙が流れた。



俺が全てを話し終わると、お姉ちゃんは、何も言わずに俺を抱きしめてくれた。


ああ、あったかいなあ。


お姉ちゃんが無言で抱きしめてくれたお陰で、姉から何か温かい気持ちが、俺に流れ込んでくるような気がした。



暫くそうしていると、やがてお姉ちゃんは俺から離れ、俺の頭を優しく撫でてくれた。



「陽、お姉ちゃんに話してくれて、ありがとう」



お姉ちゃんは、俺にニッコリ笑顔を見せてくれた。お姉ちゃんの笑顔は、愛情に満ちた、とても優しい笑顔だった。


そしてお姉ちゃんは、俺からトレーを受け取り、ドアまで歩いて行く。


そしてドアの前で振り返り、言った。



「陽、もし眠れなかったら、昔のように、一緒にゲームでもしようか」



そうしてまた俺にニッコリ笑顔を見せて、お姉ちゃんは部屋から出て行った。



俺は、お姉ちゃんが去ったドアに向かって、小さな声で「ありがとう」と呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良いお姉さんだな。 周りの人たちがみんな良い人たち。 だからこそ、主人公をこんなに苦しめる2人のことが許せない。 ここから成長してクズを見返してやってほしい。 暖かな主人公の周りにはもう入れ…
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