☆第26話 湊斗、再び
皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。
さて、昨日第26話を投稿させて頂きましたが、これは筆者の意にそぐわない内容で、このままでは今後のシナリオの根幹を揺るがすような事態になると判断し、誠に遺憾ではありますが一旦削除して書き直しをさせて頂きました。
こちらが改変後の第26話となります。
色々とお騒がせを致しましたが、今後ともよろしくお願い致します。
「やあ、寝取られ君、元気か?」
その日の放課後、俺が帰り支度をしていると、奴、碓氷湊斗が教室に入って来た。
するとすかさず大輝が俺のそばに寄って来て、湊斗を睨みつける。
「陽に、何か用か?」
大輝を見た湊斗は、両手を前に出して、ニヤニヤしながら言った。
「おいおい、待てって。俺は別にケンカしに来たんじゃないんだよ。ただ寝取られ君とちょっと話がしたいんだよ」
「だから、何の話だ?」
大輝が今にも飛びかからんばかりの形相で湊斗を睨んでいる。
「ちょっと、外野は引っ込んでいてくれるかなあ?俺は別に寝取られ君を取って食おうってことじゃないからよ」
「だったら、まずその呼び方をやめろや!こいつには陽ってちゃんとした名前があるんだよ!」
「わかったよ。じゃあ、陽ね。陽さ、二人で話がしたいから、ちょっと屋上まで一緒に来てくれるかな?」
すると大輝が首を横に振って言った。
「陽、行く必要はないぞ」
俺はどうしようか迷った。教室を見回すと、空はもう帰ったようだ。
ここで奴を無視してもいいが、なんかこいつに逃げたと思われるのもムカつくな。
何の話か知らないが、行ってやろうじゃないか。
「大輝、俺、ちょっと行ってくるわ」
「じゃあ、俺も行ってやるよ」
「いや、いい。俺だけで行くから」
そうして俺と湊斗の二人で、階段を上がり、屋上へと出た。
◇
俺と湊斗は屋上へ上がってきた。
今日は昨日の晴天から一転して曇り空で、憂鬱になるような空模様だった。
俺は湊斗から少し距離をとって立つ。
湊斗はフェンスに寄りかかりながら、ニヤニヤとこちらを見ている。
俺は冷ややかな目で湊斗を見つめながら、奴に話かけた。
「で、俺に何の用だ?」
「いやな、この前は俺も少しやり過ぎたよ。それでな、寝取ら、いや、陽にな、お詫びに少しアドバイスしてやろうと思ってさ」
アドバイスだって?こいつ、一体何がいいたいんだ?
湊斗は両手をズボンのポケットに突っ込んで、話し始めた。
「陽、空が何でおまえを捨てて俺の女になったのか、わかるか?」
は?そんな事、俺が知るか。
大体、今更俺と空の話をして何がしたいんだ、こいつは。
そして湊斗は真顔になり、フウーっと息を一息吐いてから話を続ける。
「俺は学園一の美少女の空がどうしても欲しくてな。女を落とすテクニックを使って色々やったぞ。例えば、バッグやアクセサリーなんかを買い与えるのもその一つだ。それに…」
ここで湊斗は、真顔からニヤケ顔になった。
まるでニヤニヤしながら俺の反応を愉しんでいるようだ。
湊斗は俺に近づいてきて、少し小声で話す。
「それにな、あっちの方もな」
「あっちって、何のことだよ」
「陽、おまえ鈍いなあ。エッチだよ、エッチ」
そう言うと湊斗は面白そうにケラケラと笑った。
こいつ、俺を舐め切っているよな。俺は湊斗を睨みつけながら近づいて行った。
「まあ待てよ。話はこれからなんだからよ。そう、お前へのアドバイスなんだよこれはな」
「お前、舐めてんのか?俺に何のアドバイスをするって言うんだ?」
すると、湊斗のLINEが鳴った。湊斗はスマホを開きチェックをする。
「空からのLINEだ。またなんか欲しいものがあるから、買ってくれってさ。もう物欲の塊だな」
湊斗はそう言って苦笑しながら、スマホをズボンのポケットにしまった。
すると湊斗はまた俺から離れて、フェンスに寄りかかった。
「それで…空がな、ベッドの上で言ったんだよ。俺とのエッチは超気持ちがいいって。それでな、俺は空に聞いたんだよ。元カレとはどうだったんだってさ。そしたら………」
湊斗は俺を見つめながら、真顔に戻って言った。
「そしたら、全然気持ちよく無かったってさ」
そう言うと湊斗はまたケラケラと笑い始めた。
「この野郎!ふざけんなよ!」
俺は怒りの感情が抑制出来なくなっていた。頭に血が上り、俺は湊斗の胸ぐらを掴もうとした。
だが、湊斗は器用に俺をかわして距離をとった。
「だから待てって、落ち着けよ。つまりな、俺が言いたいのは、男は優しさとか性格とか、そんなもんじゃモテないんだよ」
「湊斗お前、俺を馬鹿にしたくてわざわざ呼んだのか?」
「いやいや違うって。モテないお前にアドバイスをしてやろうと思って呼んだんだよ」
「アドバイスだと?ふざけんなよ」
「じゃあお前に聞くよ。最近旦那がいながら不倫する女って多いだろ。それは何故だと思う?」
「そんなの、知るかよ!」
「刺激だよ、刺激。女は刺激を求めてるんだよ。空がいい例じゃねーか。金とエッチのテクニックで、お前を捨てて俺にコロッといっちまったんだからよ。刺激を求めてな」
それを聞いて俺は吐き気がしてその場にうずくまり、胃の中の物を全部吐き出してしまった。
「おいおい陽、大丈夫かよ」
そう言いながら、湊斗は俺を見下ろしてニヤニヤと笑っている。
「だからな、お前もな、金が無いのは仕方がないけど、エッチのテクニックくらいは磨いておけよ。これがモテ男の俺の、お前へのアドバイスだ。なんなら、女を手玉に取るテクニックも教えてやるよ。」
「ふざけんなよ!お前のはただの女遊びだろうが!恋愛じゃねーよ!」
俺はやっと立ち上がり、湊斗を睨みつけらなが近づいて行った。
そして湊斗の胸ぐらを掴んだ。こいつ、舐めやがって!
するとここで非常口のドアが開いて、萌が現れた。
萌は俺たちを見つけると、足早に駆け寄ってきた。
「あなたたち、屋上で何をしてらっしゃるの!」
俺は萌の突然の登場にびっくりして、思わず萌に問いかけた。
「萌ちゃん、どうしてここに?」
「陽君の教室に行ったら大輝さんがね、陽君が碓氷さんと二人で屋上に行ったっておっしゃるから、なんだか胸騒ぎがして慌てて来たのよ」
萌は息をきらしている。おそらく走ってきたのだろう。
湊斗は萌を見ると、目を見開いて、びっくりした表情になった。
「あ…道明寺萌……お嬢様」
「碓氷さん、ここで陽君と一体何をしてらっしゃるの?」
「いや…別に…何でもないです」
湊斗は今までの勢いは無くなって、うつむいて、口ごもってしまった。
「碓氷さん、私は、あなたに、一体何があったのか聞いているのよ?」
湊斗はうつむいたまま、黙り込んでしまった。
「陽君、なんだかもめていたみたいだけど、何があったのかしら?」
「萌ちゃん…いや、何でもないよ…」
「何でもないようには、とても思えないわね。碓氷さん?私の大切なお友達と、何かもめ事かしら?」
湊斗はやっと顔を上げた。その顔は真っ青になっている。
「いえ、本当に何でもないんです。ただ話をしていただけで…」
「で、そのお話はもう終わったのかしら?」
「あ、はい…」
「じゃあ、もう帰ってくださるかしら。私、陽君に話があってきたのよ」
「わかりました。じゃあ、失礼します」
湊斗はそう言うと、ドアに向かって足早に駆け出し、屋上から去って行った。
萌は少し落ち着いた表情になり、俺に聞いてきた。
「陽君、碓氷さんと何があったか、教えてくださる?」
「いや…ごめん、何も話したくないんだ」
「そう…じゃあ詳しい事は聞かないわ。でも一つだけ、陽君は碓氷さんとは、かかわらないほうがいいと思うわ」
「ああ、うん」
「私も碓氷さんの噂は色々と聞いているわ。あの人と陽君はまるで正反対じゃないの。もう碓氷さんにはかかわらないでちょうだい」
萌はそう言うと、俺の右手を持って、自分の両手で優しく包み込んでくれた。
ああ、なんだか、温かいなあ。優しい手だなあ。
そして俺は萌の前で、涙を流した。この涙は、いったい、何?
すると萌はハンカチを取り出して、俺の涙を拭ってくれた。
「陽君には…私がついているから…これからも、ずっと…」
そう言って萌は、ちょっと背伸びをして俺の頭を撫でてくれた。
中3の萌から頭を撫でられてちょっと恥ずかしかったけど、同時に俺の中に安心感のようなものが湧いてきた。
俺、まだまだ子どもなのかな?
そして俺達二人は、並んでフェンスに寄りかかる。
やがて萌の小指が、俺の小指と重なり合った。
「あら、陽君、青空が見えてきたじゃない」
俺は空を見上げた。すると雲の切れ間から青空が顔を出し、そして西から太陽が差し込んで来た。
俺達は無言でずっと空を眺めていた。でも、俺達の絡め合った小指は、離れることはなかった。
どれくらいそうしていただろうか。
やがて空がオレンジ色に染まってくる。
俺も、萌も、何も話すことができずに、ただ黙って座っていた。