☆第25話 愛菜、激おこ
俺は石川さんに車で家まで送ってもらった。
萌は今日は本当に楽しかったわ、また会いましょうと言って、車の中から手を振る。
俺も萌に感謝の気持ちを伝えて、萌の車は遠ざかって行った。
さて、家に入るか。俺はロレックスを外して、バッグの中に入れた。これを家族に見られたらヤバイ。
もちろん、スーツ姿のこの格好を見られてもヤバイ。
俺は玄関のドアを音を立てないように気をつけながら開けて、革靴を手に持った。
そしてそろりそろりと階段を上がり、自分の部屋に入る。
ふう…セーフ。
つか、これどうしよう。やっぱり全部萌に返したほうがいいよな。
そして俺が着替えようとしていると、ドアをノックして姉の沙希が部屋に入ってきた。
「陽、帰ったのね。あのね、夕方アパレルショップの店員さんがこの袋を持って来た…陽!何その恰好!!」
姉貴は口を大きく開けて、びっくりした表情で俺を見ている。
ヤバイ、姉貴に見られた。
「陽!そんなスーツ持ってなかったわよね!それに…眼鏡も買い替えたの?」
俺は返答に困ってしまった。なんだか、めんどいことになりそうな予感。
「それってブランド物のスーツじゃないの!?それに革靴まで!…ん?そのバッグ見せて!」
そして姉貴は、俺の足元にあるバッグを手にした。
「これ…プラダじゃないのよ!なんで陽がこんなもん持ってるのよ!」
はあ、もしかして、俺、詰んだ?
仕方がないので、俺は今日の出来事を姉貴に話した。
今日は友達のお金持ちのご令嬢の萌と会って、買い物をして、それで…。
「で、陽はそのご令嬢さんと付き合ってるの?」
「いや…ただの友達だけど…」
「ただの友達の陽に、こんな高級なものを、その萌ちゃんて子は買ったって言うの?」
「まあ、そういうことになるんだけど」
「それって、おかしくない?いくらお金持ちだとしても、やり過ぎでしょ!」
姉貴、それは今の俺が一番感じていることなんだよ!
だからどうしようか、悩んでいるんじゃないか。
「陽あんたね、私だからこんな風に聞いているけど、これ、父さんと母さんにバレたらヤバイわよ?」
「そんなの分かってるよ。だからお姉ちゃん、このことは父さん達には黙っててよ」
そうして俺は、姉貴に手を合わせて頼み込んだ。
「まあ、それはいいけど。じゃあとりあえず、母さん達にバレないように、それ、隠しておきなさいよ?」
「うん、わかってるよ」
「まったく、あんたはもう、何をやってるんだか」
そうして姉貴はブツブツ言いながら部屋を出て行った。
はあ、ヤバかった。
俺は速攻でスーツを脱いで、ヤバイ物を全部ダンボール箱に入れて、クローゼットの奥に隠した。
そして部屋着に着替えて、下に降りてみんなで夕食を食べた後、部屋に戻りベッドに寝転がった。
あ、そうだ。萌にLINEをしておこう。
俺はスマホを手に文字を打ち込み始めた。
『萌ちゃん、今日は楽しかったよ、ありがとう( ^^)』
10分程待つと、萌から返信が来た。
『陽君、私も本当に楽しかったわ。ありがとう』
『うん。それでね。今日プレゼントしてくれたものなんだけど、萌ちゃんに返そうかと思って』
『返すですって?陽君、いったい何を考えていらっしゃるの?』
『いやだから、あまりにも高価すぎて、いくら友達でも、やっぱりこれは貰えないよ』
するとすぐに、萌からLINE通話が来た。
「陽君?私のプレゼントを返すだなんて、私納得できないわよ?」
「いやだから、金額が高額すぎて、これは貰えないよ」
「それはないと思うわ。私が好きでプレゼントしたのよ。私のワガママだからって。陽君もわかってくれたじゃない」
「ああ、それは…うん」
「私がスーツやメガネなどをプレゼントしたのはね、陽君に、もっと自分に自信を持ってほしいと思ったの。陽君はけっしてダサ男子じゃないわよ。あまり自分を卑下しないでもらいたいわ」
これはダメだな。もし俺が萌にプレゼントを返そうとしても、萌は絶対に受け取らないだろう。
それに、俺がそうすることで、もしかしたら萌は悲しむかも知れない。萌を悲しませるのは嫌だ。
「陽君、私の気持ち、わかってくださった?」
「うん…じゃあ、萌ちゃんのプレゼント、大切にするね」
「分かってくれて嬉しいわ。じゃあ明日、新調したメガネ、学校に付けてきてちょうだい」
「え?あのメガネを学校に?」
「そうよ。せっかく買ったんじゃないの。それにとても似合っているし。私明日、教室まで見にいくわよ?」
そうだな…まあメガネならいいか。
ロレックスをしていけと言われるよりはましだよな。
「萌ちゃん、わかったよ。明日はあのメガネで行くよ」
「そう、よかったわ。じゃあ陽君、また明日ね」
そうして萌とのLINE通話が終わった。
まあ色々あったけど、萌との一日は正直楽しかったな。
イタリアンレストランとか、ミュージカルとか、まるで夢の様な時間だった。
それに萌が楽しんでくれていた。それが俺には一番嬉しい。
◇
翌日、新調した眼鏡をして学校に行った。
教室に入り自分の席に座ると、大輝、優太、拓也、美織が寄って来た。
「陽、眼鏡換えたのか?めっちゃ似合ってるじゃん!うんうん、カッコいいぞ!」
大輝が大声で言った。
ふと前を見ると、空が後ろを振り向き俺の顔をじっと見つめた後、また前を向いた。
優太、拓也、美織からも、お褒めの言葉を受けとった。
そうか、やっぱり眼鏡を変えて良かったかな。
「それにしても、眼鏡一つで、こんなにも変わるものなのね」
美織がうんうんと頷きながら、真面目な顔でこたえる。
そうしてみんなで雑談をしていると、教室に愛菜が入って来た。
「陽!昨日萌ちゃんとデートしたんだって?どういうことよ!!」
愛菜の叫び声に、クラスメイト達が一斉に愛菜を見る。
その顔は怒りの表情だった。愛菜が俺を睨んでいる。
「陽!昨日萌ちゃんからLINEが来たわよ!昨日陽とデートしたって。やっぱり萌ちゃんと会ってたんじゃないのよ!」
ヤバイ。愛菜にバレた。つか萌、愛菜に話しちゃダメじゃないのよ。
「萌ちゃん、陽とのラブラブデートを楽しそうに話してたわよ! 2時間も! 陽あんた、私に嘘ついたわよね!」
そう、萌には体調が悪いからと大嘘をついた。もう言い訳のしようがない。
「愛菜、ごめん!先に萌ちゃんから誘いがあったから、仕方がなかったんだよ」
「だったら、萌ちゃんとデートするからって正直に言えば良かったじゃないの!」
愛菜の顔は、怒りで真っ赤になっている。激おこ状態だ。
でも、デートと言うのは訂正しておこう。
「愛菜、君、さっきからデートって言ってるけど、デートじゃないからね。ただ遊んだだけだから」
「そんなのどっちでもいいわよ!私はね、嘘をつかれたのが気に入らないの!」
「ああ、それは本当にごめん。謝るから、許してよ」
これじゃあまるで痴話ゲンカじゃないか。
美織は心配そうに、大輝、優太、拓也の3人は俺と愛菜のやりとりをニヤニヤしながら眺めている。
「私は別に陽が萌ちゃんと遊んでもかまわないわよ。別に私は陽の彼女じゃないんだから。でも嘘をつくのはないんじゃない?何かやましい下心でもあったの?」
「いやいや、そんなのないから。ただ萌ちゃんと遊んだ、それだけだから」
すると、自分の言いたいことを言って、愛菜も少し冷静になってきたようだ。
「もういいわよ。じゃあ、今度の日曜日は私と遊ぶのよね?」
「うんうん、愛菜、日曜日、何処かへ遊びに行こう」
すると、拓也が二人の話に入り込んできた。
「愛菜ちゃん、そう言うことなら、俺も一緒にいきたいよう」
そして大輝もニヤニヤしながら言った。
「じゃあ、俺も日曜は予定ないから、一緒に行くか」
そして更に美織も口を挟んで来た。
「それなら私も行くわ。みんなで遊びに行きましょう?」
すると愛菜が呆れたように言った。
「なんですって?あんた達もついて来るって言うの?」
「なんだ愛菜、陽と二人っきりでデートしたいのか?」
大輝がニヤニヤ顔を崩さずに愛菜に聞いた。
「そんなこと考えてないわよ!別に私は陽の彼女じゃないし。わかったわよ。もう、みんなで遊びにいきましょう」
こうして日曜日に、みんなで遊ぶことになった。
なんか愛菜は不満そうな顔をしているけど。
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