☆第24話 萌とのお出掛け④
皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。
遅い昼食を終え、俺達はレストラン・アルコバレーノを後にした。
時間は午後2時過ぎ。
「さあ陽君、次はミュージカルを観に行きましょう」
「ミュージカル?」
「そう。石川に3時に予約を入れてもらっているの」
萌はそう言ってスマホで時間を確認した。
「今から劇場までゆっくりと歩いて行けば、丁度良いのじゃないかしら」
ミュージカルかあ。俺は見たことがないなあ。まあ、興味がなくはないけど。
「今ね、ディジニーのミュージカル、アレジンと魔法のランプをやっているの」
「ああ、そうなんだ」
「私ね、ディジニーが大好きなの。陽君、ディジニーリゾートに行ったこと、あるかしら?」
ああ、そう言えば萌の部屋に行った時、ベッドの枕元にディジニーキャラのぬいぐるみが何個か置いてあったっけ。
「うん、前にね、家族で行ったことがあるよ」
「そう。私もね、家族で何度か行ったことがるわ。でもね…本当は、彼氏と二人で行ってみたいな」
萌はそう言うと、頬をピンク色に染めて俺を見た。
そうだね。夢の国でのデートとか、女の子は憧れるよね。萌もいつか誰かといけるさ。
萌と話をしながらゆっくりとした足取りで歩いていると、やがてミュージカル劇場に着いた。
ああ、ここね。なんだか洒落た建物だと思ってたけど、ここって劇場だったのか。
「さあ、着いたわよ、入りましょう」
俺達は二人並んでエントランス前の階段を上がって行く。
そして劇場内に入って行った。
劇団麗季プレゼンツ、アレジンと魔法のランプ、かあ、へえ。
エントランスフロアに入った俺達は、受け付けカウンターへと向かって行った。
「萌お嬢様、お待ちしておりました」
するとスーツ姿の男性が、俺達の横に立って声をかけてきた。
「神崎さん、ごきげんよう。こちらは私の友人の紅井陽君。石川が2人分の予約をしているはずですけれど」
「はい、承っております。紅井様、私は当劇場の総支配人、神崎と申します。ようこそおいで下さいました」
そうして神崎という男性は、俺達に頭を下げた。
「VIP席を2席ご用意しております。さあ、萌様、紅井様、どうぞこちらへ」
俺と萌の二人は、総支配人神崎さんの案内で、VIP席へと通された。
神崎さんがシアターへのドアを開けると、劇場内はかなりの広さだ。
前方中央に幕が降りており、そこを取り囲むように、多数の座席が並べられている。
そして座席の前方中央にVIP席があった。他の座席と違って1脚が大きく、ゴージャスな作りになっていた。
これなら長時間座っていても疲れることはないだろう。
俺と萌は、VIP席に腰を降ろした。
「では開演時間まで、ごゆっくりとおくつろぎ下さい」
総支配人はそう言うと、シアター内から出て行った。
「陽君、ところで、アレジンと魔法のランプの物語りはご存じかしら?」
「いや…実は、全くわからないんだ」
俺がそう答えると、萌が物語のあらすじを簡単に説明してくれた。
アレジンと魔法のランプは、アグランと言う王国のスラム街に住んでいる貧しい青年アレジンが、3つの願いが叶うという魔法のランプを手に入れる。
一方でアレジンは退屈な王宮から抜け出したアグラン国の王女、ジャスリンと街で出会う。
そしてアレジンは魔法使いの妨害を受けたり紆余曲折を経て苦難を経験するが、物語の最後には、王女ジャスリンと結婚をしてハッピーエンドを迎えるという物語だそうだ。
「私、この物語大好きなの。何度見ても、毎回ハラハラドキドキで、本当に素晴らしい作品だわ」
萌が珍しく興奮しながら、俺に物語の素晴らしさ、面白さを力説する。
萌の説明では、俺には物語の内容がよく分からなかったが、まあとりあえず、観てみよう。
やがて幕が上がり、ミュージカルが始まった。
出演者たちは劇場内に響くような声で、歌い、踊り、物語が進行していく。
なるほど、映画とは違って臨場感、ライブ感が凄いな。これがミュージカルというものなのか。
隣の萌を見ると、楽しそうな顔でミュージカルに完全に集中している。
俺も観覧して行くうちに、なんだか引き込まれて行った。
舞台俳優や女優の演技を間近に観て、俺もいつしか興奮していた。
やがて主人公とヒロインが結ばれて、ハッピーエンドで幕が降りた。
すると劇場内は、拍手と大歓声に包まれた。
萌も「ブラボー」と言いながら、惜しみない拍手を送る。
「あー素晴らしかったわ!本当に楽しかった」
萌は興奮しながら拍手を続けた。
「陽君、初めてのミュージカル、どうだったかしら?」
「ああ、とても楽しかったよ!臨場感があって、迫力あった」
「そう、よかったわ。やっぱり物語の最後は、ハッピーエンドよね」
「そうだね。二人が結ばれて、良かったね」
そうして俺達は劇場から出て行った。
萌は、興奮冷めやらぬような顔をしている。
劇場の外に出ると、西にオレンジ色の太陽が沈み込もうとしている。
そして萌が、そっと俺に寄り添ってきた。
その頬は、ピンク色に染まっている。
「陽君、今日は本当にありがとう。私、本当に楽しかったわ」
「こちらこそ、ありがとう。俺も楽しかったよ」
「私にも…小説じゃない、現実の彼氏…できるかな」
「ああ、もちろんだよ!萌ちゃんみたいな素敵な女の子なら、必ずできるさ」
「それが、……だったらなあ…」
最後の萌の一言は、あまりに小声過ぎて俺の耳には届かなかった。
階段を降りて行くと、萌の車が停車していて、石川さんが車の外で待っていた。
「お嬢様、陽様、今日はお楽しみいただけましたか?」
「ええ、楽しかったわ、とても」
「よれはようございました。では、お車にお乗り下さい」
そして俺と萌は車に乗り込んだ。
「さあ、陽様、ご自宅までお送りいたしましょう」
石川さんがそう言うと、車はゆるやかに走り出した。
車の中で、俺たち二人は無言だった。
ただ、時折萌の小指と俺の小指が触れ合ったのは、お互いに別れを惜しむ気持ちの現れだったのかも知れない。
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