☆第20話 修羅場の後に
皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。
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『わーん。陽、私、悔しいよう。わーん』
愛菜は、湊斗の教室での蛮行を目の当たりにし、俺の胸の中で泣き続けた。
しばらくそうしていると、愛菜も少し落ち着いてきたようだ。
「私、悔しいよ。陽があんな風に馬鹿にされて、あいつ、絶対に許せない!」
俺を見上げた愛菜の顔は、怒りで一杯だった。
俺も正直ショックを受けたし頭にもきたけど、それより愛菜のことが心配だ。
「愛菜、大丈夫だよ。俺はもう空のことは、何とも思ってないから」
そう言って俺は、愛菜の頭を撫でながら慰めた。
それにしても、空は俺をふって、あんな奴とどうして付き合い始めたんだろう。
俺には空の気持ちが全く理解できなかった。
◇
俺はその日の夜、なかなか寝付けなかった。
湊斗のニヤニヤした、スケベったらしい顔。そして目の前での空と湊斗のキス。
それらが頭の中に浮かんでは消えて、眠れなかったのだ。
俺は一体何を考えているのだろう?嫉妬?怒り?俺はまだ空に未練があると言うのか?
自分の気持ちが自分でよくわからない。空の事はふっきったはずだろう?
そうしているうちに、時間は深夜3時を過ぎていた。
俺はスマホにイヤホンを繋いで音楽を聞きながら、やっと眠りについた。
◇
そして翌日の朝、俺はいつもどおり一人で登校した。
歩道を歩いていると、中学校の校門の前に見慣れた黒塗りの外車が停車していた。
俺が近づいて行くと、運転手の石川さんが後部座席のドアを開け、萌が降りて来た。
萌は俺に気付くと、なんだか暗い表情で挨拶をしてきた。
「陽君…おはよう」
「やあ萌ちゃん、おはよう」
「陽君、昨日は大変だったみたいね。愛菜さんからLINEで聞いたわ。大丈夫かしら?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
昨日の夜、愛菜から萌にLINE通話が来たそうだ。
そして愛菜が、萌に昨日の出来事を話したという。
愛菜は泣いたり怒ったり情緒が不安定だったので、萌は慰めながら、話を聞いてあげたそうだ。
「本当はね、私その後、陽君にLINEしようと思ったんだけど、なんだか今はそっとしておこうと思ったの」
「気遣いありがとうね、萌ちゃん。俺、ほんとに大丈夫だから。それより、愛菜が心配だなあ」
「そうね…でも愛菜さん、最後には落ち着いていたから、大丈夫だと思うわよ」
そう言って萌はニッコリ笑ったが、すぐに顔を曇らせた。
「それにしても碓氷湊斗さん、ずいぶん酷い事するわよね。私は彼、嫌いだわ」
萌もそんな風に感じているのか。じゃあ他の大多数の女子は?
萌は一瞬だけ怒ったような表情をしたが、すぐに平静な顔になり話を続けた。
「あのね、碓氷湊斗さんのお父さんの会社と、うちの道明寺グループって、取り引きがあるみたいよ」
「取り引きって、どんな?」
「さあ、私も詳しくはわからないけど、なんか関係があるみたい。」
萌と話をしていると、萌がまだ中3だという事を時々忘れてしまう。
博識で頭が良く、やっぱり萌ほどのご令嬢は違うなあと、つくづく思う。
なんていうか、子どもの萌と大人の萌が共存しているような。
そんなところが、俺にはとても魅力的に感じる。
「そうだ陽君、今度のお休みに一緒に何処かへ出かけましょう。少しは気晴らしになると思うのだけれど…」
「うん、いいよ!一緒に遊びに行こう」
「良かった。お誘いして断られたらショックだったわ」
そう言って萌は悪戯っぽく笑った。まだ中3の少女萌が、顔を覗かせた一瞬だった。
◇
俺は萌と別れ、高校の校門をくぐり、校舎へと入って行った。
教室に入って自分の席に座ると、大輝、優太と美織がやってきた。
「陽、昨日は嫌な思いをしたな、大丈夫か?」
大輝が心配そうに話しかけてきた。昨日は大輝も俺の為に怒ってくれたんだよな。
「ああ、大丈夫。何ともないさ、ありがとうな」
「そうか。それにしてもあの湊斗の野郎、相当なクズだな。なんであんな奴が女子にモテるんだ?」
「さあね。俺にも分からないよ」
「いくら金持ちで学校一のイケメンでも、性格があれじゃあな。マジ、理解できないわ」
そして優太も珍しく怒った様な表情で言った。
「俺も湊斗には腹が立ってる。陽、そのうち湊斗のパソコンにハッキングして、脅しのネタを掴んでやるからな」
いやいや優太、おまえ犯罪行為だけは止めてくれよ。こいつは本当にやりかねないから怖いわ。
すると美織も何やら曇った表情で話しかけてきた。
「陽、今日は空、体調が悪いから学校を休むって。昨日のことと関係があるのかしら」
「さあね。俺には関係ないよ」
「私ね、空とは親友なんだけど、あの湊斗って人は、正直、大嫌いなの」
美織によると、湊斗はいつも、「俺にはいくらでも女が寄って来る。どんな女も最後は俺の前にひれ伏すんだ」と豪語しているという。
なんて奴だ。全くあきれ果てて言葉もないや。
でも、そんな奴に女子達が次々と寄っていくんだよな。俺には理解できないわ。
「陽はあいつと全く正反対だよね。優しくて、穏やかで、そして一途なんだよね。ねえ?陽」
気付くといつの間にか愛菜が俺の後ろに立っていて、そう話しかけてきた。
「愛菜、おはよう。昨日は、なんかごめんな」
「なんで陽が謝るのよ。陽は何も悪いことしてないじゃない」
「それは、そうだけど…」
「昨日は私もつい感情的になっちゃった。でも、得したこともあるよ」
「ん?なんだい?」
「それはね…陽に頭をいい子いい子して慰めて貰ったことだよ、きゃはは」
そう言いながら愛菜は、俺に体をすり寄せてきた。
よかった。いつもの愛菜に戻ったようだな。本当に良かった。
そして調子に乗った愛菜が、俺の頬に顔をすりすりしてくる。
するとそれを見たロリコン拓也がすっ飛んできた。
「愛菜ちゃーん。陽にばかりズルイよー。俺にもすりすりしてよー」
「そんなの嫌よ。拓也はあっちいって!シッシッ!」
こうして秒で撃沈した拓也は、すごすごと自分の席に戻って行った。
それにしても、昨日は確かに嫌な思いをしたけど、そのお陰で俺達の絆がさらに深まった気がする。
俺は、自分には大切な友達がいるということに、本当に感謝していた。
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