☆第19話 修羅場
毎度ご愛読ありがとうございます。
今回のお話しは、ついにあの男が登場します。
さあ、物語の幕があがります。
「陽、元気ぃー?きゃはは」
弁当対決の後も、愛菜はほぼ毎日、休憩時間になると俺の席に来てくれている。
そしていつもの調子で、愛菜は俺を弄りながらも二人で色々話をして笑い合った。
愛菜とこうしていると、なんだか中学時代に戻ったみたいな気持ちになるんだよなあ。
そういえば、なんだかんだいって、愛菜はずっといつも俺の側にいた気がする。
「私が、陽の心の傷を癒してあげるからね」
愛菜はニコニコ笑顔でいつもそう言ってくれる。
俺がまだ、空に振られたショックを引きずっているのだと思っているのだろう。
でも愛菜のそんな気配りは、本当にありがたいと思う。
俺も正直、空とのことをもう忘れているかと言えば、それは嘘になるだろう。
「ほら、私は陽の猫ちゃんだよ!にゃーん」
そう言いながら、愛菜が自分の顔を俺の頬にスリスリしてくる。
「愛菜、近いよ!」
俺は顔を真っ赤にして、すり寄って来る愛菜を遠ざける。
「んもう、陽はノリが悪いんだから」
愛菜は頬をぷくっと膨らまして怒ったような表情を見せるが、またすぐに笑顔になって、俺にまたスリスリしてくる。
ふと前を見ると、空がこちらをじっと見ていた。
俺が見たのに気付くと、空はまた前を向いた。
「陽、どこ見てんのよ!陽が見るのは、わ、た、し。きゃはは」
そしてチャイムが鳴った。
愛菜は「まったねー」と言って手を振りながら自分の教室に帰って行った。
すると大輝が寄って来た。
「なあ陽、愛菜ちゃん、思えば毎日おまえに会いに来てるよな?それってやっぱお前の事好きなんじゃないか?」
「いや、ないない。ただ友達として、心配してくれてるんだろ」
「そうかな?弁当決戦とか必死だったじゃんか。もしかして愛菜ちゃんと、そして萌ちゃんの二人は…」
大輝はそう言ってニヤリと笑い、席へ戻って行った。
いやいや大輝、それはないと思うぞ。俺みたいなダサ男子が、そんなにモテるかよ!
するとロリコン拓也も寄って来た。
「陽、おまえ愛菜ちゃんと萌ちゃんを独り占めしやがって。全く、うらやまけしからんわ」
「拓也、おまえ、二人に興味があるみたいだな。別に俺はいいんだぞ?」
「いやいや、俺はやっぱ、JSからJCの低学年の少女と付き合うぜ」
そう言い残して、拓也も席に戻って行った。
小学生…拓也お前…そのうちニュースで取り上げられることになるぞ。
こうして、俺もまた日常を取り戻しつつあった。弁当の件も一件落着したし。
これも大輝やみんなが、俺を気遣ってくれているお蔭だと感謝している。
特に愛菜は、かわらず毎日俺の教室まで来て俺をからかって、いや、かまってくれる。
萌もそうだ。LINEで話したり、時々会ったり。
そうして俺の空への怒りや嫉妬の感情も、やがては完全に忘れていくのだろう。
◇
その日の放課後、みんなが帰り支度をしていると、教室の前のドアから一人の男子が入って来た。
碓氷湊斗だ。
「空、一緒に帰ろうぜ。今日はおまえのために部活を休むからな」
湊斗が入って来たことで、クラスメイト達が騒然となる。
そしてみんな、湊斗と、空と、そして俺の三人の顔を交互に見ている。
「空、これから二人でスタバでも行こうぜ。そしてその後…えへへ」
湊斗がいやらしい顔でヘラヘラと笑っている。
「はい、ちょっと待っていてください」
空が小声で答えた。
その小さな声が俺の耳に届く程、教室中がシーンとなっている。
この光景を、クラスメイト達は固唾をのんで見守っているのだ。
気がつくと、愛菜も教室に入ってきていた。
愛菜は怒ったような顔で、湊斗を睨みつけている。
そんな緊迫した状況の中、湊斗は俺を見つけると、ヘラヘラと笑いながら近づいて来た。
「おや、これはこれは。君、寝取られ君じゃないの。元気か?えと、名前なんだっけな」
それを聞いて俺は立ち上がり、湊斗を睨みつけた。
するとすかさず大輝が俺の横に立ち、同じく湊斗を睨みつけながら言った。
「湊斗、陽に何か用か?」
「おいおい、お前1年だろ?先輩に少しは敬意を払えや、カスが」
「てめえ!」
大輝がブチ切れそうになっている。今にも湊斗に殴りかかりそうだ。
大輝がいったんキレたら警察沙汰になるぞ。ヤバイ。
すると湊斗が両手を振りながら言った。
「おいおい、俺を殴る気かよ?大切な顔に傷でもつけられたら困るんだよなあ」
湊斗はそう言いながら、空の席に近づいて行った。
そして空を立ち上がらせる。
「空、いつもの奴、寝取られ君に見せつけてやろうぜ」
「え?」
「ほら、いつもしてるじゃないか。へへへ」
そして湊斗は皆の見ている前で、空を抱き寄せて、キスをした。
空とキスをしながら、湊斗は俺の方を見て、ニヤリと笑う。
「てめえ、ふざけんなよ!」
それを見た大輝が、憤怒の表情で湊斗に向かって走って行く。ヤバイ。
「パシーン!!」
気付くと、愛菜が湊斗の頬にビンタを食らわせていた。
「あんた、あまりふざけるんじゃないわよ!」
「いててて。なんだお前、誰だ?寝取られ君の新しい彼女か?」
「そんなのあんたには関係ない!イケメンか金持ちのお坊っちゃんか知らないけど、あんた、最低のクズだね」
「なんだお前、舐めてんのか?おい!」
そう言いながら湊斗は、愛菜に手を上げようとした。
すると大輝が湊斗の腕を掴み、締め上げた。
「おまえ、いい加減にしろよ!」
「いててて」
大輝がさらに湊斗の腕を、強力な握力で締めつける。
「いてててて。わかったよ。降参だよ、降参」
「この野郎、ふざけやがって」
そう言いながら大輝が手を離すと、湊斗はまたヘラヘラ笑いながら言った。
「まったく、どいつもこいつもマジになりやがって。冗談だよ。冗談。おい、空、行くぞ!」
「…はい…」
こうして湊斗は、空を連れて教室を出て行った。
そして愛菜が、泣きながら俺の側へ寄って来た。
「わーん。陽、私、悔しいよう。わーん」
愛菜は、俺の胸の中で嗚咽しながら泣き続けた。
俺は、そんな愛菜の頭を撫でながら、愛菜が泣きやむのをずっと待ち続けていた。
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