☆第16話 お弁当決戦
皆様、ご愛読ありがとうございます。
さあ、遂にお弁当対決が始まりました。
よろしくお願いします。
翌日、とうとう朝が来てしまった。
俺はいつもどおりに顔を洗い身支度を整え、制服を着た。
母さんには昨日の夜、明日もまた友達と学食を食べるから弁当はいらないと言ってある。
朝食を済ませ、家を出て、俺は学校へと歩いて行った。
学校に到着し教室に入り自分の席に座ると、大輝、優太、拓也、そして美織が寄って来た。
「陽、いよいよ弁当決戦が始まるな」
大輝がニヤニヤしながら俺に声をかけてくる。
「陽、おまえ、愛菜ちゃんと萌ちゃんを泣かせるようなことをしたら、許さないからな!」
ロリコン拓也がそう言いながら俺の首を軽く締めてきた。
拓也お前、だったらお前が食べて、お前がジャッジしてみろや。
優太は何も言わず、ただニヤニヤして俺を見ている。
「私も参戦しようかと思ったけど、やっぱり止めておくわ。なんか面倒に巻き込まれそうだから」
美織がなんとなく同情するような目で俺を見つめながら言った。
そうしてくださいな、美織。俺は二人だけでも手が一杯だ。
はぁ、昼休みになったら、一体どうなってしまうんだろう。めっちゃ気が重いわ。
俺は憂鬱な気分で、午前中の授業を受けた。
◇
そして授業が終わり、昼休憩時間になった。
するとクラスメイト達が俺の周りに集まって来た。
みんな、パンやサンドウイッチを頬張りながら、観戦準備を整えて決戦を待っている。
ふと空のほうを見ると、空は珍しく今日は教室に残っていて、自分の席で弁当を食べ始めていた。
「陽、来たわよー!心の準備はできてるー?」
そう言いながら、愛菜が堂々とした態度で教室に入って来た。
するとクラスメイト達は「おおーーーー!」っと歓声をあげ、愛菜を拍手で迎えた。
そしてすぐに萌もニコニコしながら教室に入って来た。
「陽君、ごきげんよう。今日はよろしくね」
するとクラスメイト達は愛菜が登場した時と同様に、拍手で萌を迎えた。
おまえらなあ…事を大げさにするんじゃねーよ。
そして突然、教室内に獣神サンダー・ライガーのテーマ曲が流れてきた。
それは、優太が上に掲げているスマホから聞こえてきている。
「陽、どうだ?これでムードが盛り上がるだろ?」
優太、いやいやそんなもんいらないから。早く消せや。
「陽、おまえ、ちょっとどけよ」
大輝はそう言うと、俺の机を教室の後方中央に移動して行く。
「これでよしっと。これならギャラリーも見やすいだろ?」
大輝がニヤリと笑い、グッドラックと言って、俺に親指を立てた。おまえら、やりすぎなんだよ。
そして俺はイスに座った。対面に、愛菜と萌も腰を降ろす。
愛菜は横からじーっと萌を睨んでいるが、萌は涼しい顔をしている。
◇
「さあ皆さんついに始まりました!弁当決戦1本勝負!神野愛菜バーサス、道明寺萌ぇーーー!」
優太が調子に乗って、勝手にMC実況を始めた。
するとギャラリーが「わあーーーー!」っと歓声を上げる。
そして愛菜、萌それぞれが弁当を机の上に置いた。
愛菜のランチボックスはブルーの箱、白い蓋には花柄のデザイン、中央に可愛い子猫のキャラクターがプリントされている。
一方、萌のランチボックスは、全体が萌の好きなピンク色。蓋もピンクで、英文の上に、薔薇の花のプリントだ。
二人とも、それぞれの特徴が出ているような弁当箱だなあ。
「さあて、これで準備が整ったぜー!一体どんな弁当が出てくるんだー」
優太がギャラリーに向けて絶叫している。そういうの、もういから。
「じゃあ、まずは私から開けるね。オープン!」
そう言うと、まずは愛菜が弁当箱の蓋を開けた。
愛菜が蓋を開けると、ギャラリーから「おーーー!」っと歓声があがる。
愛菜の弁当の中身は、彼女の得意な卵焼きに鶏の唐揚げ、それと豚の生姜焼き、ハンバーグにフライドポテト。
そこにレタスとミニトマトが彩りを添えている。
そして白ご飯の上に、斜めに鶏そぼろと卵そぼろが乗せてあり、その境界線をピンク色の桜でんぶで区切ってある。
うんうん、とても美味しそうだ。
愛菜を見ると、ニコニコ笑顔で俺を見つめている。
「それでは、次は、私のお弁当ね」
萌が弁当の蓋を開けると、またギャラリーの「おーーー!」っという歓声。
萌の弁当の中身は、出汁巻き卵に、愛菜と同じ鶏の唐揚げ。そして海老チリに春巻き。
その横にポテトサラダが配置されており、その横にブロッコリー、ミニトマトが添えられている。
こちらも彩りが鮮やかだ。
そしてご飯は…これは炊き込みご飯かな。
すると萌が補足説明を始めた。
「陽君、お料理の説明をさせてね。卵は名古屋コーチンのブランド卵、そして鶏肉は比内地鶏を使用しているわ」
なるほど、高級食材オンパレードのお弁当と言う訳か。
愛菜を見ると、隣の萌をじーっと睨んで、何か言いたげだ。
そして萌が説明を続ける。
「あと、海老チリと春巻きはうちのシェフの直伝よ。そして、松茸の炊き込みご飯。ベースの米は、山形県産のつや姫。松茸は、国産の高級品を使用して、釡炊きしてあるわ。そしてその上に金粉をちりばめてみたの」
「おおーっと、流石はご令嬢だー!高級食材を使った、超高級お弁当だあああ!!」
裕也がまた叫び出す。おまえ、いい加減にしろよ、マジで。
「もちろん、脇役の野菜にもこだわってあるわよ。これでどうかしら?陽君」
萌が俺をじっと見つめながら言う。愛菜はずっと萌を睨み続けている。
◇
「陽、じゃあ、まずは私のから食べてみて」
愛菜がこちらを向き直し、笑顔に戻って言った。
「じ、じゃあ、いただきます」
俺は愛菜の弁当に箸をつける。
まずは、卵焼きを食べてみる。モグモグ…ゴクン。
「陽、どう?美味しい?」
「うん、とっても美味しいよ!」
俺がそう言うと、愛菜は愛らしい顔でニッコリと笑った。
うん、流石に愛菜の得意料理だけあって、ふんわりしていて味も俺好み。とても美味しい。
そして次に俺は唐揚げを箸でつまみ、口の中に放り込む。
うん、唐揚げもジューシーで、とても美味しい。
「陽君、次は私のを食べてちょうだい」
萌にそう言われて、今度は萌の弁当に箸をのばす。
まずは出汁巻き卵を箸でつまみ、口の中に入れる。モグモグ…ゴクン。
うん、これはとても美味しい。少し甘みがある出汁がしみ込んでいる。これは美味いや。
そして次に、比内地鶏とやらの唐揚げを食べる。
モグモグ…ほう、これは美味い。臭みも全くなくてジューシー。
「陽君、私のお弁当、どうかしら?」
「うん、めっちゃ美味しいよ!」
それを聞いて、萌はやっと笑顔を見せた。すると愛菜がまた萌をじとーっと睨みつける。
ふと見ると、ギャラリーの中に、いつのまにか空が混じっていた。
無表情で、俺達の弁当対決を眺めている。
それから俺は、愛菜と萌の弁当を交互に食べて言った。
愛菜の鶏そぼろ&卵そぼろもちょうどいい味で、とても美味しかった。これはご飯が進むな。
だけど、それにも増して美味しかったのは、萌の松茸の炊き込みご飯だ。
正直俺は料理は詳しくないけど、多分、出汁や醤油のさじ加減が絶妙なのだろう。
松茸もいい香りがして美味しいし、お焦げの部分もあって、それはそれは絶品だった。
俺が二人の弁当を食べ終わると、優太がまた実況を始める。
「さあ、陽が二人の弁当を食べ終わりました!二人とも大健闘したんじゃないでしょうかー!」
俺は箸を置いて、二人を見た。愛菜は身を乗り出して、真剣な顔で俺を見ている。
萌は、まるで勝利を確信しているような涼し気な顔で、じっと俺を見つめている。
すると優太が俺の横に来て、ギャラリーに向けて叫ぶ。
「さあ、ついにジャッジメントの時間がやってまいりました!勝敗は一体どうなるんだーー!」
そして優太が俺の耳元で囁く。
「陽、おまえ、ここまできたら、ちゃんと美味しかった方を選んで答えろよ?」
うーん…こまったなあ。
どちらの弁当が美味しかったと言えば、それは正直、萌の弁当の方が一歩出て美味しかった。
つまり、勝者は萌の方だ。
でも、そうしたら愛菜が悲しむことになるんじゃないか?
それならいっそ、ドロー、引き分けにしたら…
いやいや、それじゃあ愛菜と萌も納得しないんじゃないだろうか?
それに、俺は二人に嘘をつくことになる。それは自分自身が許せない。
二人とも弁当を一生懸命に作ってきたはずだ。それを引き分けになんて忖度したら、二人に対して失礼じゃないのか?
ギャラリーもシーンと静まり返って、俺のジャッジを待っている。
ああ、神様、俺は一体どうしたらいいんですか……
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