☆第12話 豪邸にて
「さあ、陽君、中へ入りましょう」
そう言って道明寺萌は玄関に近づき、パネルのような物に手を当てる。
すると、ピピッと音がして、玄関のドアが左右に開いた。
「さあ、入ってちょうだい。遠慮はいらないわよ」
「ああ、はい…」
俺は萌の後ろにくっつきながら、中へと入って行った。
これは……
広いエントランスの前に、まるで宮殿のような光景が広がっている。
そして目の前の壁には、たぶん高価なものであろう大きな絵画が飾ってあった。
俺はまるで別世界に紛れ込んだような感覚におちいった。
「ただいま帰りました」
萌がそう言うと、いわゆるメイド服姿の女性…いや、まだ未成年かな?
そして後ろから気品のある顔立ちの女性が現れた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
メイド服姿の少女が深々と頭を下げる。
「萌さん、お帰りなさい。…あら、萌さんその人は?」
「お母様、今日はお友達を連れてきました」
なるほど、この気品のある女性が、萌の母親なんだな。
しかし、この家は運転手にメイドまでいるのか。まるでドラマの世界じゃないか。
萌の母親は、俺の全身をチェックするかのように眺めながら言った。
「そう、お友達なのね。萌さんが男性のお友達を連れてくるなんて、初めてのことよね」
「はい、この人は青蘭学園高校の1年生で、紅井陽君と言います」
「ああ、青蘭学園のね。陽さんごきげんよう、よろしくお願いしますね」
萌の母親は、そこで初めて笑顔を見せた。
それにしても綺麗な人だなあ。まるで女優みたいだ。
「あ、俺…僕は赤井陽と言います。よろしくお願いします」
そう言うと俺は、深く頭を下げた。
この俺の日常からかけ離れた光景は衝撃的だ。なんだか委縮してしまう。
「さあ陽君、私の部屋でお話しましょう。葵さん、私の部屋に、いつもの紅茶とシフォンケーキを持ってきてちょうだい」
「かしこまりました、お嬢様」
メイドの少女は葵さんと言うのか。この子も可愛い顔立ちをしているなあ。
「陽君、さあ行きましょう」
萌はそう言うと、エントランス前のアーチ型の階段を昇って行く。
俺も萌の後に続いて階段を昇って行く。
二階に上がると、いくつものドアがあった。この豪邸、一体何部屋あるんだ?
通路を歩いて行くと、萌は一番奥の部屋で止まり、俺に告げた。
「ここが私の部屋よ。さあ入りましょう」
ドアを見ると、ここだけドアがピンク色に塗られている。他の部屋のドアは全部薄茶色だったけど。
そして萌がドアを開けて中に入る。
俺も「お邪魔します」と言いながら部屋に入り、ドアを閉めた。
ああ、これが萌の部屋か。
萌の部屋は全体がピンク色で統一されていた。
ピンク色の勉強机、その隣に机と同じ高さのパソコンラックがあり、ノートパソコンが置かれていた。
そして大きな本棚に、ダブルベッド。部屋の中央には円型のテーブルに椅子が二脚。これら全てがピンク色だ。
本棚を見ると、上段には難しそうな書籍が並べてあり、下には小説やコミックがきれいに並べられている。
そして窓際には何体ものテディベアが並んでいて、全体にシンプルな感じの部屋だ。
ノベルズやコミックを見ると、どうやらそのほとんどが恋愛系のものみたいだ。
「萌ちゃんは、ピンク色が好きなのかな?」
「そうね、ピンク色ばかりで驚いた?」
「いや…そんなことはないよ。女の子の部屋って感じでいいと思うよ」
俺がそう言うと、萌は「ありがとう」と言ってニッコリと笑顔を見せた。
俺は萌のことをあらためて見つめる。
長い黒髪のサイドをピンク色のリボンで結んでいる。
パッチリした二重に少し茶色の瞳。そして高すぎず低すぎず丁度いい鼻筋に、ちょこんとした小さな可愛い鼻。
唇はリップを塗っているのか、ピンク色にキラキラと光っている。
萌は、あどけなさと大人の魅力が混合したような超美少女だな。
俺がぼーっとして萌に見とれていると、コンコンとドアがノックされた。
「お嬢様、紅茶とケーキをお持ちしました」
「ありがとう、入ってちょうだい」
すると、メイドの葵さんが、プレートに紅茶とケーキを乗せて入って来た。
「本日は、オリジナルブレンドの紅茶と、抹茶のシフォンケーキでございます」
そして葵さんはそれらをテーブルに並べて、「失礼します」と言って部屋を出て行った。
「陽君、さあ、頂きましょう」
萌はそう言うと、紅茶を一口飲んだ。そしてフォークでケーキを取って上品に食べる。
俺も紅茶を一口…うーん、多分高級茶葉を使っているんだろうけど、俺にはわからないや。
「それで、萌ちゃん。俺をわざわざ家まで呼んだのには、何か理由があるんじゃないの?」
俺は単刀直入に萌に聞いた。
いくら俺を助けたからって、一度会っただけの男子をわざわざ家にまで呼ぶのは何か理由があるのだろう。
「そうね…実はね……陽君のことは、あの日、陽君と出会う前から、知っていたの」
「萌ちゃん、俺のこと前から知っていたの?」
「ええ…でも、会ったことがあるとか、直接話したわけではないんだけど…」
そして萌は、また紅茶を一口飲んで、ゆっくりと話し始めた。
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