☆第10話 慰安カラオケ大会
皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。
今回は一息ついて、陽と仲間のカラオケ大会を楽しんでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
「ジャーン!きゃはは、陽、元気ぃー?」
大柄な大輝の後ろから飛び出してきたのは、隣のクラス、B組の神野愛菜だった。
「陽、空に振られたんだって?ご愁傷様ぁー、きゃはは」
こいつ、いきなり登場して、いきなり俺の心をえぐりやがって。
でも長い付き合いの俺にはわかっている。これは愛菜なりの俺への表現だ。他意はない。
陽気な少女、愛菜とは中学1年から3年と、ずっと一緒のクラスだった。
いつもきゃははと笑っている明るい天然娘。
中学時代から愛菜は何かというと俺に絡んできて、その愛菜の明るいノリは俺は嫌いじゃなかった。
そんな愛菜が同じ高校に進学すると聞いていたが、クラスは別になった。なんとなく残念な気がする。
愛菜は高1になった今でもまだ幼い顔立ちで、身長も低いし胸も小さい。ぶっちゃけ、小学生に見えなくもない。
そしていつも髪の毛をツインテにしているから、余計に幼く見えるんだよな。
「愛菜ちゃーん、今日も可愛いねー!写真撮らせてー!」
ロリコン拓也がスマホで愛菜を撮影し始めた。
「きゃはは、愛菜をいっぱい撮ってー!うふ」
「愛菜ちゃん、小学生みたいで可愛いよー。カシャッ」
拓也!このロリコン野郎め。ここは学校だ、撮影会場じゃねーぞ!
「さあさあ、拓也も、もういいでしょ!早く行くわよ」
美織はそう言うと、スタスタと教室から出て行った。
他のみんなも、美織につられて次々に教室を出ていく。
はぁ、カラオケか。なんか気が重いなあ。
でも、このまま家に帰っても憂鬱なだけだし、ちょっと行ってみるか。
そんな事を考えていると、愛菜が「陽、早くしろってばー」と俺を急かす。
俺はカバンを持ち、教室を出て行った。
◇
俺達は校舎を出て、カラオケ屋へと歩いて行く。
目的のカラオケ屋は、青蘭学園高校の最寄り駅近くの繁華街にある。
俺はみんなに歩調を合わせてトボトボと歩く。
すると美織が俺に近づいてきた。
「陽、しっかりしなさいよ。陽の気持ちも分かるけど、いつまでも沈んでいたらダメよ」
「うん…まあね」
「私たちは内心では、陽のこと本当に心配してるんだからね。わかってる?」
「それはわかってるよ。ありがとうね」
そして今度は愛菜が俺に近づいてきて、身体を密着させてくる。歩きづらいわ。
「陽、何暗い顔してんのよー。ダサ顔がますますダサイじゃないの、きゃはは」
愛菜、余計なお世話だ。俺がダサ顔だから、空をイケメンに取られたとでも?
まったく、こいつは俺を慰める気はないのかよ。完全に茶化していやがる。
「愛菜ちゃーん、陽のことはいいから、俺と歩こうよー」
ロリコン拓也がスマホを片手に、無理やり俺から愛菜を引きはがす。
そしてカシャカシャと、スマホで愛菜を撮りまくっている。
小学生みたいな愛菜だが、もう高校生だぞ。お前、守備範囲を広げたのか?
そうして歩いているうちに、やがてカラオケ屋に着いた。
カウンターで大輝が手続きを済ませて、俺達は広い部屋のBIGルームへと入っていく。
部屋に入るとそれぞれソフトドリンクを頼み、ソファに座る。
「陽、私の隣においで、寂しい子猫ちゃ~ん、きゃはは」
愛菜が俺の手を握り、俺を自分の隣に座らせる。
「じゃあ、私も陽の隣に座るわね」
そう言って美織が近づいてくる。
俺の両隣に愛菜と美織が座ると、ロリコン拓也が騒ぎ出した。
「愛菜ちゃーん、陽にばっかり、ずるいよー!俺もかまってくれよ」
そう言いながら拓也は愛菜の隣に座り、ニヤけた顔で愛菜に密着してくる。
すると俺達の対面に腰を降ろした大輝が、あきれ顔で拓也をたしなめる。
「拓也よ、今日のカラオケは陽を励ます企画だぞ。ロリコンもいいが、少し自重しろや」
「そんなことわかってるよ。陽、じゃあ今日のところは、愛菜ちゃんをすきにしていいいぞ!」
拓也、愛菜は別にお前のものじゃないんだぞ。まあ、俺のものでもないが。
そして俺を真ん中に愛菜と美織が座り、対面に大輝、優太、拓也の三人が座ってポジションは決まった。
なんか、接待キャバクラみたいになっているが、これでいいのか?
そして店員がドリンクを運んできた。
「さてみんなー!陽の失恋に乾杯しよー!きゃはは、かんぱーい!」
調子に乗った愛菜が、乾杯の音頭をとる。
愛菜おまえ、俺の失恋を心底楽しんでいるだろ?だが、愛菜をどうしても憎めない。
そして何故かみんなで乾杯した後、愛菜が「じゃあ私が一番に歌うぞー」と言って、素早くタッチパネルで選曲をした。
愛菜がマイクを持ち、みんなの前に出る。
スピーカーからは、某アイドルグループの曲が流れてくる。全盛期は日本国中が凄い盛り上がりを見せたグループの曲だ。
愛菜は笑顔で曲に合わせて踊りながら歌い始めた。
「きゃー!愛菜ちゃんかわいいー!サイコー!」
ロリコン拓也が興奮して、カシャカシャとスマホで愛菜を撮りまくっている。
優太を見ると、しれっとした顔で、やはり愛菜を盗撮、いや、撮影している。
この曲は当然俺も知っているので、ついついリズムをとってしまう。
うんうん、愛菜は確かに可愛いよな。キャラ的には天然でまだ幼いけど、まあ、妹みたいに思えばいいか。同学年だけどな。
そして愛菜が最後のポーズをきめて、曲が終わった。
「パチパチパチ。愛菜ちゃん、よかったよー、ナイスですよー!」
拓也が歓声を上げて大興奮している。お前そんなに興奮して、そのうち鼻血が出て来るぞ。
愛菜のパフォーマンスを皮切りに、みんなが次々と歌を歌っていく。
それを聴きながら、俺も少し気持ちが落ち着いてきたようだ。
やっぱり、カラオケはいいよな。しかもみんな歌ウマだから、聴いていて心地いい。
すると美織が俺の耳に顔を寄せて話しかけて来た。
「陽、どう?少しは気が晴れてきた?」
「うん、なんだか落ち着いてきたよ」
「そう、よかった。じゃあ陽も何か歌ったら?」
「そうだな、じゃあ何か一曲歌ってみようか」
そうして俺は、バラード曲をタッチパネルで選曲した。
俺の順番が来ると、しっとりとしたバラード曲が流れ始める。
俺は愛菜と美織に囲まれて座ったまま、歌い始める。
今の自分の感情を込めて、丁寧に歌い続けた。
サビの部分では感情が爆発してしまった。俺は声が高いので、高音部分を思い切り歌い上げる。
こうして歌っている間は、嫌なことを全部忘れられた。
俺が歌い終わると、暫しの静寂の後、みんなの拍手が沸き上がる。
「おおー!陽いいじゃん!うまいうまい、サイコー」
「陽のバラードは、やっぱいいねー!」
優太と拓也がパチパチと拍手をくれる。
大輝は腕を組み、目を閉じてうんうんとうなずいている。
ふと隣を見ると、何故か美織が涙を流していた。感動してくれたのかな?
「陽、よかったよ、超カッコいいよ!」
いつもは俺をイジリ倒してくる愛菜も、珍しく真剣な顔で目を潤ませて俺をじっと見つめてくる。
その幼い顔に、一瞬だけど、女を見つけた気がした。
「陽には、私がついてるよ。私、陽のこと、ずっとずっと、ずーっと、見守ってきたんだからね」
愛菜はそう言うと、俺の手を両手でぎゅっと握ってくる。
そして愛菜の瞳から、涙が一筋流れ落ちた。俺には愛菜が、泣くのを堪えているように見えた。
「私は空のように陽を裏切らない…絶対に」
愛菜が、うつむいて小声で何か言ったが聞こえなかった。
「え?今なんていったの?」
「きゃはは、なんでもなーい!」
愛菜の顔が、いつもの笑顔に戻ったようだ。そう、いつもの可愛いい笑顔に。
◇
「さてと、陽の歌うまバラードの次は、俺の心の叫びを聴いてくれ!」
次は優太がマイクを握り、最近流行りの曲「うるさいぜ」を歌いだした。
「うるさい!うるさい!うるさいぜ!」
優太が「うるさいぜ」を絶叫する。
これはアップテンポでノリのいい曲だが、お前、何かストレスでもかかえてるのか?
優太の大音量の叫び、うるさいぜ。
こうしてみんなで色々な曲を歌い合い、騒いでいると、なんだか気持ちが晴れてくる。
みんな、俺を励まそうと集まってくれた最高の仲間達だ。
俺は独りじゃない。俺にはこんな気のいい奴らがいるんだ。
なんだか、ありがたいなあ。
最後は愛菜がマイクを握り、ボーカロイドのノリのいい曲を歌った。
すると拓也が「かわいー!」とはしゃぎながら、またスマホでカシャカシャと撮影をする。
拓也、おまえ一体何枚撮るんだよ。もう千枚は超えてるんじゃないか?
こうしてみんなで歌い合い、騒ぎまくって、俺達のカラオケ大会は終了した。
俺もこの一時だけでも嫌なことを忘れられた。本当に楽しかったよ。
みんな、ありがとうな!
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